カレーうどんは邪道カレーそばこそ正義
もうそろそろ一限の授業が始まってしまいそうなので放課後に俺とレイ、そしてあの小さな先輩、三年生で一番学力が高く、そして身長が小さいで有名な、生徒会会計、杠葉恋先輩の三人で集まることにした。
少しくらいは要件を聞いておけばよかった。そうすれば何が来たとしても対処できた、というような気がする。
恐らく、と勘繰る事をしなくても、彼女が生徒会の会計であることと、俺が新人の副生徒会長であるということを鑑みれば要件の内容は絞り切れそうなものだが。
「そういえば、藍子さんはいつから学校に来れるんでしょうか」
昼休み、なんだか恒例となりつつある食堂で俺とレイはカレーうどんを啜っていた。今日は俺もレイもカレーうどんの気分だったのだ。他意はない。
「来週の月曜からだって言ってたかな。今日の午後に退院で、土日を挟んで月曜、って次第らしい。」
「そうですか。意外と時間かかりましたね、退院まで」
「そうだな」
まあことがことだったからな。薬を盛られたと言っても過言ではないのだから、病院が心配になるのもわかるような気がする。俺には何の医療知識もないので、完全なる予想となってしまうのだが。
「あの後、あの成都海先輩はどうなったんでしょうか」
「ああ、それはな」
そう。
生徒一人をこん睡させ、病院送りにしたあの理科実験部の先輩がどうなったのかと言えば。
端的に言って、どうにもならなかった。
何も事前と事後で変化がなかった。
平穏そのものだった。
「どうもこの学校はきな臭い。だって、生徒一人が昏睡だっていうのに、先生方は犯人が『成都海』だと知った途端に、平然な顔をしてやがった。「ああ、あいつね」みたいな感じで流しやがった。だから俺とレイくらいしか藍子が病院送りになったっていう本当の事情は知らないらしい」
「へえ。それはなんとも。」
昏睡。と言っても昼休みくらいから放課後までの数時間。そのあとは俺と一緒に家に帰り、その後から入院ということになった彼女。
そんな大ごとになっておいて、その犯人がお咎めなしだってのは――ちょっと気持ちが悪い。
俺はこの学校に来て数か月だというのに、この学校に来たことを後悔している。
こんなドタバタな日常が訪れるなんて、思いもしなかった。
「でも、この学校に来なければ僕と出会うこともなかったじゃないですか。そして僕と藍子さんが再会することもなかった。なので、ここは「この学校に来てよかった」って言ってほしいものですね」
「へんなこと言ってすまんな。俺もお前とあえてよかったとは思っているよ。」
「ふふふふふふふふふふ。」
「こわい」
そうして、俺とレイはカレーうどんを啜る。
もちろんこの学校はブレザーであるので、白シャツを下に着ているのが普通だ。そしてこの六月。梅雨も明け、本格的に暑くなりはじめてきた今日この頃。俺達、と限定せずともほとんどの生徒が白のシャツの状態で過ごしていた。
カレーうどん。
それは白シャツの天敵。
啜る。と言ったが、あれは嘘だ。
啜ってしまえばうどんの最期のしっぽの部分が自分の白シャツに向かって反旗を翻しかねない……!
だからラーメンですらもきれいに食べようとする女子のように、パクパクと麺を啜らずに食べることになる。
「それは、語弊ですよ。洸祐さん。女の方でもきちんとラーメンをたしなんでいる方ならば、麺は日本的に啜って食べるそうですから。」
「ああ。悪かった。それは知らなかったよ。ところでレイはどうしてそんな啜っていながら汁がシャツに飛ばないんだ?」
「ああ。僕は麺と友達ですからね。彼らのしっぽの部分をしっかりと理解してあげれば、それほど難しいものでもありませんよ」
「そういうものなのか。」
と、俺はカレーうどん、そのうどんを三本ほどつかみ、口に運ぼうとする―――。
つるん。
べちゃ。