キャラづくりは大変なのだ
「小さいとは何事じゃ!私、いや、ワシは学年一位の生徒会会計だぞ!三年で一番頭がいいってことはこの学校で一番頭がいいってことなんじゃからな!覚えておけ!」
杠葉先輩はそんな風にやいのやいの言っていたのだが――いかんせん小さいのでよく入ってこなかった。
あれ、今「私」を「ワシ」って言い直さなかったか?
「洸祐さん。全くデリカシーってものがないですね。そういうことは言ってはいけないんですよ。彼女は自分のキャラ作りに凝っているのですから……そっとしておきましょうよ」
「……そういう一見味方であるかのように話を合わせていたのに、実は一番デリカシーのない奴って絶対にいるわな……」
そうだぞ。あげて落とすようなひどいことをするもんじゃないぞ。って、一番ひどいこと言ってるのに気づいているのかいないのか…。一番ひどいのは、なんて言うまでもないかな。
「で、先輩。何か用ですか?」
俺とレイの間に割って入って来たというか、急に生まれてきたような先輩に疑問を投げかける。
「うむ。其の件なんだが……」
と話始める先輩。だけれど、暫定的にこの三人の中で一番ひどいという順位付けがなされたこの袖ケ浦レイという男。もとい、ノンデリの男がまたもや話を遮る形で水を差した。
水を差した。というのも言いえて妙だ。別に意識してこの場所にゆかりのありそうな言葉のチョイスをしたというわけではない。変におやじギャグが好きな高校生だと思われたくないしな。
「―――先輩。失礼ですが、ここ、男子トイレですよ。」
とレイは言った。
「ななんあななんあなななんあんあ」
まるでNとAを交互に押した結果「ん」が混じったような悲鳴に似た何かをあげる杠葉先輩。顔からは火が吹いていた。
「べべべべつに、知ってはいたがな!全然これくらいでとりみだだすワシではないわわわわ!」
いや、言っていたらなおさらおかしいのではないだろうか……。という疑問は置いておくことにした。
掛け値なしに、俺の身長の半分くらいしかない先輩だから、この学校の男子トイレと女子トイレを間違えても不思議はない。
男子トイレと言っても、それは小便器のところというわけではなく、男子トイレ入ってすぐの正真正銘お手洗いの目の前であった。
だから厳密に言えば、男子トイレのテリトリーには入っているのだが、便器の方には到達していない。ギリギリセーフと言える場所ではあるだろう。
「アウトじゃろ!」
小さな先輩はそう声高に主張するのだが。
「そうそう。アウトですよ。僕たちみたいな男子高校生が女子トイレに一歩でも踏み込めばアウトなのは言わずもがな何ですが……この場合はどうなるんでしょうかね。もしかすると警察に連絡した方がいいんでしょうかね」
怖い怖い。
この話題はなんとなく怖い。
やめておこう。
「まあとりあえず、用も済ませたことだし、出ようぜ」
立ち話もなんだし。みたいなテンションでいった。ただトイレから出るだけなのに。
トイレから始まるラブコメなんてあっただろうか。
――というかそもそもこれはラブコメなのだろうか……?