因縁と呼ぶには知らなすぎる
「俺が、ほしい?」
生徒会に?そして、成都海が……?
一応生徒会長からの直々のお誘いなわけで、手放しにとはいかないまでも、喜んでいい場面だと思うのだが、俺はどうにもそんな気になれなかった。
「どうして、ですか?」
聞かずにはいられなかった。藍子をどうにかしていることはそんなにすごいことなのだろうか。俺としては、ただの日常であるし、取るに足らない日常であるのだが。
「どうして。――そうかそうか、君は自覚をしていないタイプなのかな。私とこの小娘はね、私と在り方がとても似ているんだよ。だから、この小娘を扱えるということは、この私ともうまくやることができるということなんだよ」
人を扱う、という風にモノのように言うのはよくないとは思う。
在り方、というのはきっと、カリスマがあるとかそういうことだろう。
誰にでも好かれるとか、いつも周りに人が絶えないとか――リーダーシップがあるとか。
その在り方が似ている。俗っぽく言えば、「キャラが被っている」ということだろうか。
だから、相容れることはない。そして現に相容れている属性を持った――俺が欲しい。
「そうだよ。よくわかっているじゃないか。まさにその通りさ。君のような人間が生徒会には足りないと常々思っていたところなんだよ。だからさ、洸祐君。」
と先輩が次の言葉を言おうとしたところに、チャイムが鳴った。
午後の授業が終わったことを知らせるチャイムだ。
そして、
「ああ、そういうことでしたか。『せいとかい』。確かに『せいとかい』と言えば成都海先輩ですね。僕としたことが失念していました。」
と、この理科実験室に、息を切らした袖ケ浦レイがやって来たのだった。
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レイが来たことで、成都海先輩は露骨に嫌そうな顔をした。「そうな」なんてつけることが烏滸がましいくらいに晴れやかとさえ思えるほどの嫌悪感だった。
「おや、お呼びではなかったようですね。ではこれで……」
とこの部屋から逃げようとするので
「いや!お前は最高だよ。俺のそばにずっといてくれ。レイ」
なんて、告白まがいなことを言ってしまうのだった。
「私、君はいらないんだよね……君みたいな八方美人を面に張り付けたようないけ好かない男は興味ないっていうか。正直、心底きらいなタイプかな。それでいて誰にも流されないってのが君らしいところだけれどね。袖ケ浦君」
睨みつけているその眉間はこれ以上なく鋭かった。
「これは誉め言葉として受け取っていいのでしょうか、洸祐君」
「え、ああ、いいとおもうよ」
「ですよね。この方は僕のいい所を列挙するばかりで、何をしたいのかさっぱり…」
――この袖ケ浦レイという男。
本気で天然なのか、それとも高度の煽り性能を持ち合わせているのか……。
どちらにしろ、先輩の顔には先ほどまでの余裕なんてなく、苛立ちで頭の中がいっぱいのようだった。
「ああ。ああ。本当に腹が立つ。そう。そうだった。私がこんな風になったのも……!」
その長い髪が宙に揺らめく。怒りの形相、だった。
「いや、怒ってはいけない。私。ここは先輩として冷静になるんだ。そう。そう。そう。―――では、ここで一つ、君たちを焦らせる事実を一つ、提示するとしよう」
レイが来る前の、得意げな話し方をする先輩に戻っていく。
「――そこに寝転がっている小娘。
紫吹藍子は今後目を覚ますことはないだろう」