エピローグ
ここまで、長かったです。
楽しんでくださいね。
それから、十年後まで。
俺は十年後の世界に戻るなんてことはなく、二十五歳のまま、十年間を過ごした。正直、高校二年の体育祭が一番きつかった。あれ、先生方は本当にすごいぞ。
悪いことだけでもなかった。なぜか後輩の女の子にはモテたし、勉強はなんだかできるようになっていた。レイとかには及ばないけれど。
そしてしずく。しずく先輩には見向きもされなかった。一番きつかったなんて言ったけれど、やっぱりこっちが一番きつかったかもしれない。
世界か彼女か。実質一択だろ、なんて思っていた。
けれど、こうして世界を救うのか、彼女を救うのか。迫られたわけだ。
俺は主人公じゃない。
だからかっこいいことなんて一つもないけれど。
俺は世界を救ったといってもいいのではないだろうか。
***
「洸祐さん。聞きました? うちの高校から歌手が生まれたって話!」
「ああ。恋先輩が好きなやつだろ? しずく先輩の。」
「そうですよ~。やっぱりしずく先輩の歌声は本物だったんですね!」
今でも、後夜祭のバンドを思い出しますよ~なんてレイは言っていた。雨森しずく。アーティスト名は「シズク」そしてバンド名は高校時代のまま「TEARS」。あれはやっぱり伝説といっていいライブだった。
***
『洸祐は、結婚式に来るの?』
「行きますよ、もちろん。はい。もちろん連れていきますよ。引きずってでも」
『洸祐が逆に引きずられそうな気がするけどな……。まあ、早めに出欠席のカード、お願いね』
「わかりましたよ。恋先輩」
***
十年後の夏。俺はまた、藍子と再会していた。
「ネイビー。俺だ、シャイニーだ。」
なんてバカみたいな暗号を言いながら、藍子の邸宅に向かう。するとすぐに役人が出てきて、俺は藍子の邸宅に入ることになった。
「洸祐様ですね。お待ちしておりました」
使用人だろう。とても丁寧な所作できれいな人だと思った。
けれど、その所作に見とれていただけだというのに、ハイヒールで俺は足を踏まれた。いってえよ!!
「あら、そんな浮気者には当然の報いだと思うけれど?」
胸元にはバッジがついていて、きちんと議員なんだということがよくわかる。
藍子は使用人たちを下がらせ、部屋は俺と藍子の二人になった。
「レイと恋ちゃんの結婚式、出れそうになった!まあ、あんまり大々的には行けないんだけどね」
「そうなるよな。もし渋っていたなら引きずってでも行くつもりだったけどな」
「それ、恋ちゃんも言っていた気がする」
「そう、それ」
藍子を覆うものは、こんなにも豪奢になった。けれど、中の部分は、何も変わっていない。幼馴染の俺が言うんだから間違いないだろう。だって俺、ほかの人の二倍幼馴染してるんだぜ?
「私たちも、する?」
いつもの俺なら、逡巡して、迷って、悩んで、それなりの答えを出していたと思う。
けれど、そんなことどうでもいいくらいに、俺はこいつを愛していた。
もう、『世界の中心人』ではない藍子を。
そんな力に頼らなくとも、同じ結末を手繰り寄せることができる、幼馴染のことを。
俺は、二十年越しに、言う。
あとがき。
私の日常的な部分を話してもいいのかと思いましたが、誰も興味がないと思うので、この作品を書くにあたって考えていたことをつらつらと話したいと思います。
まずこの『少女ネイビーとシャングリラ』という作品。正直タイトル以外何も決まっていない状態からのスタートでした。見切り発車過ぎる……。
皆、きっと、自分の中に『全能』を抱えていると思います。それが、目に見えるかどうか。昔は持っていた人。今も持っているけれど隠している人。それを磨いている人。
そして、器用貧乏という人もいると思います。なんでもできる代わりに、何にもできない。そんな人が。私自身がそんな人間でした。
そうして生まれたのが、紫吹藍子という少女です。高校生だったり、国会議員になったりする藍子ですが、あくまで『少女』というところに私はこだわりを持っています。器用貧乏の頂点で、それが原因で無気力になっている少女が『全能』の力を持ってしまった。自分の理想の世界を作り上げてしまった。
でも、洸祐のことだけは思い通りにならない。それが藍子にとってどれほどの救いだったことか。そしてそこへのつながりを絶たれた藍子の絶望は……。
ここで、出会わなければよかったんです。でも、彼女と彼は出会ってしまった。心の蓋が開いてしまった。一番だった洸祐が『生きにくい』なんて言ってしまった。
とまあ。そんな感じです。
私は、この物語はこう考えています。皆さんにとってはどんな物語だったでしょうか。感想などで教えていただけると、飛び上がって喜びます。
最後に、感謝を。
本当の小説ならば、きっと担当編集さんとかに感謝を述べるんでしょうけど、私は読んでくれているあなたに感謝を言いたいです。本当に、ありがとうございます。大好きです。
あなたのおかげで、無味無臭だった世界が明るくなりました。読んでくださる一人一人が、終わろうとしていた私の生きる糧でした。
ただの数字だろ。とか言われるかもしれませんね。けれど、私にとっては意味のある数字でした。
この作品が、誰かの糧になりますように。