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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
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贋作の心と小さき命

「とりあえず、まともなところに行こうか」

という鶴ヶ島川越の提案によって、俺達は、生徒会室に行くことになった。

生徒会室は、どこかほかの教室とは毛色が違うようだった。何の影響もないといえるほどに、無傷だった。

「どうしてか、ここだけは大丈夫みたいなんだ。きっと声も届いていないから大丈夫だ」

豪奢な椅子に俺たちは腰掛ける。そういえば、この部屋の椅子ってこんな感じだったな。と俺もレイも思ったところで、先輩は話を続ける。

「そうだ、思い出した。君、降谷洸祐君だよね? 確か、僕は君のこと嫌いだったと思うんだけどあっているかな?」

「俺の記憶が確かなら」

『果たし状』事件。事件といっていいのかはわからないが、それでも印象に残っている。俺は先輩に「二度と顔を見せないでくれ」なんて言われたものだ。

「いやあ、本当によかった。多分あそこで僕と君が仲良くしていたら、ダメだったろうからね」

机には、『マル秘』と書かれたノートと、薄群青の手紙があった。

「ここで、情報共有と行こうか。この手紙の内容と、ノートの内容を…………」

「ちょっとわし、体調が悪いみたいじゃ。席を外してもいいかの?」

恋先輩は行ってしまった。「まあ、急いでも仕方ないからね。少し休憩にしよう」という鶴ヶ島先輩の一言で、三十分間の休息をとることになった。紅茶とお茶菓子はあるらしい。

レイは、ちょっと気になる。といって恋先輩の後についていった。俺もここにいて鶴ヶ島先輩と二人きりになるのは少しハードルが高かったから散歩がてらに校舎を回ることにした。


俺と藍子の教室。何度か使った図書室。文化祭実行委員の集まりの時使った視聴覚室。藍子と生徒会がカギを持っていた屋上。校庭。そしてもう完全に更地になった旧校舎。掃除をした屋外プール。

そうして回って行って、以外にも思い出が多いことに気が付いた。

だが、その思い出は、ほとんどが、一年生のものだった。

どうしてか。それはきっとわかる。

主人公がいたかどうかの違いだと、思う。

「恋さんみませんでしたか?」

レイが、階段を駆け上がってきて、息を切らしながらそういった。

「どこにもいないんです」

レイがこんなにあせっているのを初めて見た。――本当に大切なんだということがよく分かった。


***


「ちょっと待ってろ。俺には心当たりがある」

「では、僕も……」

「多分、俺一人じゃなきゃ、開けてくれない。だから、ここで待っていてくれ」

といって俺は向かった。


きっと、レイに見つかりたくなかったのだろう。だから、ああして体調が悪いなんて嘘をつくときに、レイのほうを見なかった。普通なら、一緒に来てほしいと訴えるのではないだろうか。でも恋先輩はそれをしなかった。

だから、俺は、内側から鍵をかけられるような場所にいると思っている。

そして俺も恋先輩も印象に残っているそういう場所は、一つくらいだ。

校舎を出て、校庭へと向かう。場所は体育倉庫。

俺としずくの出会いの場所でもある。

「先輩。そこにいますよね。開けてください」

鍵は当然かかっている。一応鍵は持ってきたが、それでは意味がないと俺は思う。

「そこにレイはいるか?」

「いないです」

ビンゴだった。レイに聞かれたくないことだ。

「先輩。時間がないです。早く戻りましょう」

きっと鶴ヶ島先輩の三十分は精一杯の譲歩だったろう。もう、山火事の火の手は差し迫ってきているし、ここにいつ星が降ってくるかもわからない。

そんな中での値千金の三十分。時間がないのは当然だった。

「俺、先輩が『魅了』なんじゃないかと思うんです」

単刀直入にい俺の仮説を言う。

「初めてあった日とか、プール掃除のときとか。俺は意外だったんですよ。友達に関してはきちんと人見知りしてから吟味するタイプの人間な藍子が、ああも簡単に仲が良くなるなんて。今までないことでしたから」

「…………」

「そして、藍子がいなくなったとき。レイはきっと、傷を負って生きるんだと思ってました。俺と一緒に。でもそうはならなかった。先輩の好意とは言え、レイは少しあっさりとあなたを愛しすぎた」

「…………」

「そして、あなたはこうして結婚まで進んでしまった。だからそれに関しての罪悪感から、そして看破される恐怖から、出れないでいる」

時間がない。なんだか焦げ臭いように思えてきた。よく周りを見れば、赤い火の手がいたるところから上がっている。鋭い風がそれを促進させている。

鍵が中から開いた。鍵を用いた強硬策にならなくてよかった。と思って鍵を捨てる。

「一緒に、謝ってくれるか?」

「その必要があれば」


***


「集まったね。紅茶はまだあるからね。でも、手短に話すとしよう」

恋先輩は、黙っている。『魅了』の話が出てきたとき、「ちょっと待ってくれ」といって話を遮った。

「レイ。わしはおぬしを騙していた。わしが『魅了』の能力者なんじゃ」

「そう……ですか」

恋先輩は俯き加減だ。俺はこっちに向いた先輩の目を、応援をもって見つめる。恋先輩はレイのほうを向く。決意を持った目で。

「わしは、おぬしが好きだった。どうしてもわしのものにしたかった。だから、『魅了』を使った。わしがこういう話し方になったのも、余計な人に『魅了』を使わないためじゃ。言葉は言霊じゃからな。

「だから、おぬしの思いは偽物じゃ。きっと藍子に向いている気持ちが本物――」

恋先輩が涙ながらにそう言おうとしたところ、先輩の口をレイはふさぐ。もちろん口で、じゃない。指でだ。心配しなくていい。

「あなたが偽物だ、なんて言わないでくださいよ。僕の気持ちなんですから。たとえそうだとしても、今は恋さんを愛しています。そして、もう一人、あなたの中にいる――子も」

恋先輩のおなかをさする。

レイは、いつだって真剣に気障なのだ。気に障るなんて書くけど、とんでもない。俺はこうしてまっすぐに気持ちを伝えられるのを、素直にうらやましいと思う。思えるように、なった。

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