嬉しいのか、わからない
「病めるときも、健やかなるときも」
たどたどしい日本語で牧師が言う。
目の前にはレイと恋先輩がいる。結構な身長差がある二人だ。どうやって誓いのキスをするのかと思ったが、レイは恋先輩を抱き上げて、大胆なキスをした。――その手があったか。
隣にいるしずくは「いいぞー」なんて言って楽しそうにしていた。恥ずかしいので、やめてください。
周りには、河合とか、ほかにも高校三年間で培った友人が多くいた。俺の友人だったやつもいれば、レイの職場の関係者だろうか。俺とは全く関係のなさそうな人もいた。
そうして、見まわしたとき、見たことのある人物が紛れ込んでいたように思えたけれど、実際はどうなのかはわからない。
二次会。というか、ほとんど同窓会になった状態の結婚式。近所の居酒屋で開かれていた。ここは河合の店らしい。親が持っていた土地をうまく使ったといっていた。
「二人の結婚に、カンパーイ!!!!」
「カンパーイ!!!」
ここにいるのは俺たちと同じ高校にいた人なはずだ。だが、ちらほら知らない顔も混じっていた。きっと変わりすぎた人とかもいるのだろう。後は俺が知らない人。
「にしても、降谷がしずく先輩と付き合ってるなんてな~。もう長いんだろ? 次はこいつらか~?」
ヒューヒューと皆はやし立てる。もうみんな仕上がりつつあって、なんでも楽しいこ頃合いだろう。
「それは、まだわからないんじゃない~??」
しずくも久しぶりの酒に浮かれているみたいで、俺の肩を抱きよせながら、そんな信ぴょう性のないことを言っていた。こいつ、酒癖悪いんだよな……。
「私は~いつでもいいっていってんのに~。コウ君が~」
「おい。ちょっとこいつに水!」
俺が「しずく」と呼び掛けても、よくわかってないみたいだった。こいつ、大丈夫か?
とりあえず水を飲ませて、寝かしておいた。「コウ君が~」の後に続く言葉を言われてたら、俺が何を言われるかたまったもんじゃ……。
「そうかー降谷が渋ってんのか~そうかそうか」
河合が大きな声で言うもんだから、みんな俺のほうを見る。
恋先輩がこれ見よがしに、口をはさむ。
「子供のこともあるしのう……早くものにするんじゃぞ。洸祐」
「……はい」
くそ。やっぱりこうなった。レイは酔わないらしく。ただにこやかに俺のほうを見ていた。
外の風にしずくを当たらせたかったし、俺も少し気持ちの悪い酔い方をしてしまったので、しずくを肩に担ぎながら外のベンチに腰掛けた。
店内のほうが暑い。外はひんやりとしていて気持ちがよかった。
夏が来つつある。
「隣、いいですか」
といって、しずくのほうではなく、俺のほうを選ぶというのは、レイの気障な部分が出ていると思える。こいつは、何か変わったのだろうか。何も変わっていないように見えるが。
「藍子さん。すごいですね。多分、総理大臣になるのなんてもっと先なんでしょうけれど。もう十分すごいですよね」
「ああ。本当にすごい。」
「洸祐さんは、あまりうれしくなさそうですけど」
「そうか? いや、そうかもな。」
「どうしてですか?」
「どうしてって、そりゃあ……」
そりゃあ。
そりゃあ。
そりゃあ。――なんだろうな。
「じゃあ、洸祐さんが言わないなら、僕が言います。洸祐さんに言ってなかった藍子さんのこと」
レイは、そして、あの夏のことを話しはじめる。