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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
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もしも、主人公が死んだ物語があるとすれば

仕事は、そこまで有名ではない広告代理店に勤めている。給料は手取り18万円。一人で生きていくにはつらい金額かもしれない。でも、郊外から都心に通うということをすれば、ほんの少しの余裕ができる。しずくとも一緒の口座にしているので、結構余裕はあるほうだ。でも、今後子供ができたら? 車を買ったら? と考えればキリがない。

そんなことを考えながら俺は電車に揺られていた。ちょっと体がだるいのは、きっと昨日頑張りすぎたせいだ。しずくは元気そうだったのが、戦歴の差をもの語っていると思う。

白状しよう。

俺は藍子と連絡を取っていない。

というよりは、あの日。藍子が東京に向かった日。その日から藍子とは連絡が取れていない。家電でも、携帯でも、家族のみんなが総出で連絡をしてもつながらない。

連絡先さえあれば、どこでも繋がれる。

そんな便利な時代になった。

だが、それは生身のつながりが希薄になるということにもなりはしないだろうか。

連絡先さえあれば。それがなくなれば、俺たちの関係はいとも簡単に泡沫の夢となってしまう。

それが藍子だった。

十数年間のつながりなんて、連絡先が意味をなさなくなるのと同時に消え去ってしまった。渡された住所も、行ってみれば、そこは数年前から使われていない廃墟だった。

高校一年生の俺は、裏切られたような気持がしたものだ。俺は、というか、俺たち全員同じような気持ちだったのではないだろうか。レイ、恋先輩。その二人も顔を曇らせていた。

ゴトンゴトン。毎日聞く音に耳を澄ませる。周りには、同じようにスーツに身を包んだサラリーマンたち。みんなつり革は両手で持っている。こうして他人に触れないように、心に不快感を与えないように。凪のような気持で生きていく。そんな時代の体現者が、藍子なのかもしれない。


何年ぶりだろう。こんなに藍子のことを考えたのは。きっと藍子がいなくなってすぐの時と、しずく先輩と付き合おうとした時くらいだ。

電車のドアはぷしゅーという音とともに開き、人が重力に導かれるかのように流れていく。改札口は濁流という感じで、スクランブル交差点に出れば、腐るほど人がいた。

こんな雑多な街に藍子はいるのだろうか。いないのだろうか。それすらもわからない。

こうして、藍子のことを考えるときに思うこと。

アイツは、主人公だった。

俺たち、残された俺とレイ、そして恋先輩。藍子がいなくなった俺たちは色を失ったように笑わなくなた用に思う。ただ友達、という形骸化した残骸が残っただけ。みんなは藍子中心に回っていた。俺が思う皆は、藍子から枝分かれしたみんなだった。

主人公を失った物語はどうなるのか。

それはもちろん、崩壊するに決まっている。

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