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少女ネイビーとシャングリラ  作者: オカダ倭
110/124

D.C.

夜の部屋で。

俺はギターを弾いていた。別にうまくはないけど、ただこうして頭を空っぽにしているだけで心は守られるようだったからだ。

すると、「コン」と窓から音がした。―――藍子だ。

俺は窓に背を向けて、いる。いつもみたいに藍子の家のほうに身を乗り出したりなんかしない。きっと藍子も今日はそうだろう。しっとりとした時間が流れている。

「連絡、するから」

「ああ」

今更ながら、携帯で話せばいいのに、なんてことを思った。こんな原始的な方法で話さなくとも、もっと簡単に話す方法はいくらでもある。

「休みがあれば帰ってくるから」

「帰ってきてもやることないぞ」

「じゃあ、洸祐が来て」

「……わかった」

鈴虫は相変わらず鳴いていた。月明りは俺たちの間にあるのかもしれない。俺と藍子の間は青白く照らされていた。

「レイと恋ちゃんも、連れてきてね」

「わかった」

「あと、『総理大臣部』は好きにして。なくしてもいいし、つづけてもいい。ただし、やるからには全力でやることね」

「わかったよ。部長さん」

「部長は洸祐でしょ」

「そういえば、そうだったかもな」

この時間が終わってほしくなくて。俺たちはずっと話していた。レイの話。恋先輩の話。文化祭の話。夏休みの話。入学当初の話。中学校の話。小学校の話。幼稚園の話。そして、初めて会った時の話。

今までの道のりを振り返るように話した。忘れないように、という枕がつくかもしれないほどに、女々しく話していた。言葉にしないと、取りこぼしてしまいそうだったから。

「弾いてよ。洸祐」

「ああ」

藍子が、暫しの沈黙を破って、そういった。

この弦が揺れなくなったら。俺と藍子の会話は終わる。

「洸祐、うまくなったね」

「ありがとう」

なんだか、こんな気がしていたから、昨日はこうしてギターを弾いていたのかもしれない。完璧を目指す彼女に、完璧な演奏を届けるために。

close to you。

藍子が好きだったのか。それとも俺が好きだったのか。いつの間にか俺と藍子の共通の曲になっていた。

最後の一音が九月の空に響く。

「おやすみ」

「おやすみ」

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