思い出すのはいつもくだらないことだったりする
それから、それから。
少し時季外れのタピオカジュースを飲み、文化祭が終わろうとしていた。
喫茶店とか、売店とかには「SOLDOUT」の文字が並んでいて、中ではクラスのみんなが談笑していた。こういう時、アミューズメント系は最後までやることができて楽しいと思う。談笑も楽しいだろうけど。
底に残ったタピオカと格闘していたら、文化祭終了のアナウンスが流れた。
「本日は~ありがとうございました。また来年のお越しをお待ちしております。」
なんだか聞いたことのある声だと思ったら、これは、雨森しずく先輩の声らしい。彼女は放送部も兼ねているんだそうだ。確かに声がきれいだった気がする。
俺が放送の声に反応していたら、隣の藍子は「なんだ?」という風に俺のほうを見ていた。勘のいい藍子のことだから、気づかれるのも時間の問題かもしれない。朝のこと。怖い。
教室に向かうと、みんなは片づけを早くも始めてくれていた。これはきっと藍子が丁寧に進行をしてくれたからだと思う。こうして片付けの手順までマニュアル化されていれば、とっつきやすいというものだろう。
「藍子さん! これとかは、体育倉庫前に持っていくでいいんでしたっけ?」
河合が積極的に参加してくれているおかげで、進んでいるみたいだ。後で飲み物をおごろう。
俺と藍子、そしてクラスのみんなで片づけを終わらせ、教室は元の机が敷き詰められた無機質なものへと戻ってしまった。でも、まだしばらくはこの接着剤と段ボールの香りは消えないだろう。というか、消えてほしくないとさえ思う。
「皆。今日まで本当にありがとう! こうして早く片付けが終わったのも、何事もなく、楽しく終われたのも、みんなのおかげ! 本当にありがとう!」
藍子は少し涙ぐんでいるようにさえ見えた。祭りの途中は、怒涛過ぎてわからなかったが、あと一週間もすれば、ふとした時に「たのしかったなあ」なんて言葉が口をついて出てしまうんだろう。
「でも、まだ祭りは終わってないわ。後夜祭がある! 片付けを爆速で終わらしたのは何のため? そうでしょう後夜祭でいい席をとるためよ!」
盛り上がる教室。
「最後まで楽しみましょ!解散!」
「皆行っちゃったな」
「後夜祭は、しずく先輩がバンドするらしいわね。だからかもしれないわ」
「へえ、そうなのか。しらなかったなー」
「そんなはずはないわね。ほら」
と言って藍子は一枚の丁寧におられたチラシを渡してくる。裏には、しずく先輩のサインが書かれていた。
「これは……」
「そんな、重要証拠を初めて見つけた時の刑事の真似しなくていいから。とぼけなくてもいいのに」
「すみません」
「まあいいでしょう」
誰もいない教室。少し赤みがかった夕日が差し込んでいる。開いた窓からは心地のいい風が入ってきて、カーテンを揺らしていた。
「少し場所を変えましょう」
藍子は立ち上がる。