祭りは始まっている
「しずくも、そうやって後輩に手を出すのをやめろと言っているじゃろうが……」
「はい。恋先輩」
身長は恋先輩のほうが圧倒的に小さいのに、俺と同じくらいの身長のしずく先輩がとても小さく見えた。
俺も先輩も、芝生のところで正座をさせられている。
「ちなみに洸祐は藍子という女がいるから、手を出さないことじゃな」
「そうなのかーそれは残念だなー」
「人のものには興味ないのは相変わらずじゃな……」
それで、と恋先輩が俺のほうを向く。
「はあ。別に今回はおぬしが悪くないのはわかるんじゃが……、一つだけ罪が赦されるとするなら、藍子というものがいながら、先輩のところにひょいひょいとついていったことと、わしのパンツを見たこと、どっちを放免してほしい?」
「どっちもというわけにはいきませんかね……あれは不可抗力なんで……」
「どっちじゃ」
「……前者でお願いします……」
「よし分かった。歯、食いしばれよ」
恋先輩は、どこから持ってきたのか、来賓用の緑色のスリッパを取り出し、俺の頭をすこーーんとたたいた。
阿保みたいに広い、薄群青の空に、乾いた音が響いた。
そんな散々なことがあって、俺は教室にたどり着くことができた。
「どうしたのそれ」
藍子は俺の膝が赤くなっているのと、頭にたんこぶをこさえているのを見て、驚いたようにそういった。まあ、こんな漫画みたいなたんこぶができていたらそりゃあ不思議に思うだろう。
「まあ、いろいろあってな。とにかく今日は楽しもうか……」
「………そうね。まあ詮索はしないようにするわ。」
ありがてえ…このまま詮索されてたら、しずく先輩のことがばれていたかもしれない。ばれていたら、何をされるかわかったもんじゃない……。
そんなこんなで始まった文化祭。
藍子との文化祭。
最初で最後。




