体育倉庫と膝上スカート
翌日。
もうどうしようもないくらいに晴天。睡眠もばっちり、それでいて涼しい。そんなきれいな夏の朝だった。
久しぶりに、日本の涼の夏が戻ってきたと思うと、それだけで楽しい気分になれた。これぞ、祭りの夏。という気持ちだった。
学校につくと、もう、門が完璧に設営されていて、一般のお客様はこちら、なんて看板も立てられていた。
しずく先輩が「後輩くーん」なんてこちらに駆け寄ってくる。俺は自転車から降りて、挨拶をする。
「おはようございます。さすがに早いですね」
「そうなの~。まあ君たちも来年からはこうなるから、頑張りたまえよ。」
バンバンと背中をたたいてくる先輩。腕まくりをしている体操着姿の先輩。頭にはハチマキなんかがまかれていて、体育祭と勘違いしているんじゃないかといういで立ちだった。
「ああ、これ? まあいいじゃない。体育祭も文化祭もお祭りなんだし!外で作業するならこれが一番なんだよね。パンツとか気にしなくて……、ってこれは男子にする話じゃないね」
先輩は「失敬失敬」なんて言いながら、顔の前で手を合わせる。
「ところでさ、後輩君は、今暇なのかな?」
「……まあ、特にやることはないですけど」
「じゃあさ、これ運ぶの手伝ってくんない?」
と指さしたのは、三つの工具箱だった。この門を手直しするのに使ったのだという。
「いやー優しいね。後輩君は。しかも細めなのにしっかりこういうところは男の子なんだもんなあ」
先輩は工具箱を一つ持った状態で、俺の腕をつついてくる。……ちょっとスキンシップが多い気がしませんかね。ほんとに。
「ここですか?」
「そうそう。その辺にまとめておいてくれれば大丈夫だと思う、よ!」
体育倉庫の奥のほうにこの工具箱をまとめておいた。結構運動部が手入れしているようで、あまり汚いという印象はなかった。意外に初めて入ったかもな、体育倉庫。
「じゃあ、ホームルームもあるので、俺はこれで……」
と言おうとしたけれど、体育倉庫のドアが閉められた。
外部の人間にではない。雨森しずく先輩によってだ。
「……何ですか」
「……ん? なんだかおびえちゃってかわいいね。ちょっとそこに座りなよ。悪いようにしないからさ」
そういって先輩は、マットの上を指さす。
「洸祐君は、初めてなのかな?」
「からかうのはやめてくださいよ」
俺は、先輩の手を振りほどいて、扉へ向かう。そういうラブコメ展開は今は求めていないんだ。
けれど、ドアは開かない。
「まあ、このドア、壊れてて、中から閉めたら開かないんだよね。だから、このまま二人………だね?」
先輩は、最大級のぶりっ子をしながら、俺のことを……。
先輩がこっちに来る。後ろから、抱きよせるように、腕を絡めて……。
というところで、ガチャリ、と重いドアが開いた。
もたれかかっていたこともあって、俺が下敷きで、先輩が覆いかぶさるように外に体が投げ出される。
俺の真上には、かわいらしい――。
「なにしとるんじゃ!!!!!!!」
恋先輩が、そこにいた。