言葉は時にチープ
階段を降り、廊下を抜け、教室へと向かう。
それでも、アイツは教室にいない。どこかと思って、学校中を走りまわるけれど、どこにも見当たらない。
けれど目星はついていた。きっと、俺たちが一番会話をした場所。
俺は走る。
藍子ではない。恋先輩でもない。ひどいことを言ってしまったアイツのもとへ。
「ごめん!!!!!!!」
ドアを開けると、
なんて顔をしてやがる。多分俺が俺の顔を見たらそういうんだろうな。
だせえ。かっこわりい。なんてことをしてるんだ。
そんな顔するくらいなら、初めから謝っておけよ。下らねえ群像劇してるんじゃねえよ。
俺は藍子が好きなんだ。嘘をつくな。幼馴染が好きだなんて少女漫画の読みすぎだとか、そんな感じでスカしてただけだ。くそだせえ。本当の気障男は、俺だったんだ。
嫌な奴だったんだ。自分が一番幼稚なのを認めたくなくて、殻にこもって俯瞰から見ているみたいに装って。本気で生きてるレイみたいなのが、一番うらやましくて。藍子への気持ちを言葉にできるのが、うらやましくって。
どうでもいいなんて、言いながら藍子の隣にいたいのは俺自身で。それ以外の人間がいることが多分許せなくて。
だから、ごめん。本当にごめん。
でも、俺嬉しかったんだ。藍子が俺のことを選んでくれたこと。それと同時に、レイが選ばれなかったことに安堵してたんだ。
俺も藍子が好きだから。昔っから好きだから。守りたいと思えるから。
だから、ごめん。俺はレイのことを捨ててでも、藍子と好き合いたいと思う。
「そう…ですか」
レイはやはりこの『総理大臣部』の部室にいた。
「そうだ……これで文句あるか馬鹿野郎!」
息がつらい。心臓だって悲鳴を上げて居る。
「ない…というのは噓ですね。ありますよ。もちろん。あなたみたいななんの夢も持たない無気力な人が藍子さんみたいな夢を野望を持つ人物の、一廉の人間の隣に立つんですか、とかね。
「でも、藍子さんはそういう洸祐さんだから、なのかもしれませんね
「例えば、美女と野獣のような。合わないからこそ、一緒にいることができる。そういう考え方も、あるのかもしれません」
レイは、仕方がない人ですね。なんて言いながら。立ち上がる。
俺の胸に指を突き立てて、
「藍子さん、離すんじゃねえぞ」
いつもとは違う口調に、俺は驚いたけれど、
「もちろんだ」
俺たちは、ここで初めて親友と呼べるようになったのかもしれない。