プロローグ
幼馴染。
この言葉を聞いた瞬間に、俺は「変な幻想を抱くのはやめておけ」と脊髄反射的にそいつの肩に手をのせてしまいそうになるくらいには、幼馴染という単語に失望していた。
ではもし、幼馴染が男だったとしよう。
部活動も同じで、昔からの腐れ縁。何をやるのにも、示し合わせたわけでもなく、息がぴったりと合ってしまう。多分部活動はサッカーだろうな。俺が左サイドバックで、その幼馴染が左サイドハーフ。俺たちは伝説の左ラインと呼ばれて、その名を全国に――なんてことはないんだが。
あくまで、もしという過程の話。もしは、若しであって、仮にということであって、さらさら本当の事というわけではない。嘘と言ってもいいかもしれない。
一つ、事実と反することがない事柄と言えば、俺に幼馴染がいるということだろう。
そして、そいつは女の子だ。
うん。俺はどちらかと言えば紳士な方だと自負しているから、幼馴染に向かって、「女の子」なんて言葉を使ったのだけれど、たいていの男子高校生ならば、彼女の事を「女の子」なんて言わないだろう。
俺は決して思ったとしても彼女には言わないが、彼女の評価は、がさつで、男勝りで、高慢で、自信家で、この世の全ては自分がどうにかすることができると思っている、頭のおかしい女。というところだろう。少し言い過ぎたかな。
でも、もしかすると、俺の紳士で真摯であるところが、彼女をああも高慢で自己中心的に育てあげてしまったのかもしれない。小学生時代に誰もが通る、全能感というか、この世の全てをどうにかできそうな力にあふれている感じが、今も続いているのだ。彼女にとっては。
いや、このことは黙っておこう。彼女が刑事事件を起こしたとして、俺に責任の一端が押し付けられるかもしれないという可能性は限りなくゼロにしておきたい。
まあとりあえず、俺の幼馴染ってやつは、皆が思っているような、女の子然とした奴ではないってことだ。
紫吹藍子という、俺の幼馴染は。