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王子殿下と想定芝居  作者: 堂 ジヨン
第二幕 さすがに役者不足です、陛下
15/15

2.4王子殿下とわたしのお披露目:準備


「コンヤクハッピョウパーティ…?」

「簡単に言うとアルディジアさんのお披露目ですね。ハイドにこんな可愛らしい婚約者ができましたよと、皆さんにお伝えする必要があるそうです」

「さ、さらし者…いえ、公開処刑ですか?!」

「まあ、処刑されるようなことをなさったのですか?それは困りましたね、陛下に減刑を嘆願しましょう」

「母上、後の説明は俺達がしますから暫く黙っていてください」

「まあ」



 この間ぼんやりと眺めていた中庭の一角。テーブルの上には紅茶とお茶菓子が並べられ、席に着くのは王后様と側妃様にストル様、ハイド様。そうしてなぜかわたしもいます。緊張でカップが手から躍り出しそうです。助けてお父様、お母様。


「そう固くならんでも。私と菓子を食するときと同じだと思えばいい」

「お、お作法が…妃様方にお見せできるようなシロモノではっ」

「お気になさらないで、なにもマナー講義をしているわけではありませんのよ。今は」

「は、はひ……」

 

 どうしたらいいの。いつから講義が始まるの?


「母上。私のアルディジアを怖がらせないでください」

「いつからあなたの物になったというの、いい加減そういった物言いはやめなさいな」

「ストル様とご関係があった方に手を出すなんてなかなか思い切ったことをしますね、ハイド」

「アカンサ様、色々と訂正したい箇所がありますがそれはまたあとで…。今はお披露目の話が先です。アルディジア様、ドレスはいつもどこで仕立てていらっしゃいますの?」

「は、はいっ教堂の制服の発注元に、ついででお願いしています!」

「お披露目に合わせて新調できますか?」

「全区の教堂の制服を一手に引き受けている工房なので急な予約は無理かと!」

「……ストル。あなたがもう少し背の低かったころのもので一度も袖を通してくれなかったドレスは何着あるかしら」

「5着は堅いですね。ただ、彼女とわたしでは体型以前に型も色も合うものが違いますから手直しというより大規模改修になりそうですが。ハイドが贈る形になるでしょうが、装身具との兼ね合いもあるでしょうし」

「え、そんな勿体ない…!」


 王女殿下のドレスなんて言ったらとんでもなく良いものに決まっている。それをわたしのような令嬢と言っていいのかも怪しい女に使わせるなんて罰が当たってしまう。その上アクセサリーとか!

 そう心の中で叫んでいたらハイド様が睨んできた。そんな顔されたって勿体ないものは勿体ない。


「お前は俺に“婚約者に碌な贈り物も出来ぬ輩”だという評を与えたいわけか」

「うっ…そのようなことは」

「なら黙ってストル達の言うことを聞いてろ。そもそもこの女が着ないまま放置している方が無駄だろ」

「趣味が合わんのだよ。何ならお前にくれてやっても良かったが?」

「はい、2人とも。こんなところで刀傷沙汰は御免ですわ、落ち着きなさい」

「あらハイド。剣が曇ってます、手入れを怠ってはだめでしょう。ストル様は刀身が少し歪んでますね。何か重いものでも無理に叩きました?」

「アカンサ様、その話題は後にしてくださいませ」




 こんなふうに時折剣が鞘から抜かれる音が間に挟まりながら話し合いはそれなりに恙なく進み。

 数日後――


「うおぅ…」


 王城に務める針仕事が得意な侍女さん(刺繍・裁縫技官と一部では言うらしい)数人の手を借りたというリメイクドレスが届けられた。恐る恐る手に取ると触り心地から言っていつもの服とは比べ物にならないくらい良い布だということがわかる。


「わぁ…可愛い。アルちゃん早速着てみたらどうですか?」

「…」


 上部は白地で体にぴったりと沿う形、スカート部分は黒に近い青色でふんわり広がっている。

 お母様の言う通り、確かに可愛いデザインだと思う。思うけど。


「これだと胸が見えます…」

「丸出しにはならないですよ?」

「そ、それはそうですけどっもっとこう、首辺りまで覆ってくれるものでは?」

「そういうのは一定程度年を重ねた上品な婦人さんたちで、アルちゃんくらいの子はこれくらい肌見せるもんですよ?足は出ないからそんなに恥ずかしいものでも」

「いつも外では押さえてるから…」


 そもそも侍女さんたち、なぜわたしの本来のサイズを知っているの?

ストル様、前に目算でだいたいの寸法分かるって言ってましたけど、もしかしてあなたですか?


 じっとドレスを見つめている私に、お母様が真剣な顔をする。


「アルちゃん。露出が多ければ色っぽいわけでも、少なければ清楚になるわけでもないんです。むしろ、隠してる方が人目を引く場合があります」

「真剣な顔のお母様も可愛い……じゃなくて、それはどういうことですか?」

「隠されたものって暴きたくなるでしょう?」


 お母様?


「いつもみたく押さえつける道具は使えませんから、隠すとなると覆うタイプのドレスを着るしかないわけですが、こういう部分の大きさは服の上からでもバレます」

「そう、ですね」

「暴かれたら大変です」

「お母様?」

「…妙なことを吹き込むな」


 側でアイちゃんに勉強を教えていたお父様がお母様に注意する。声をかけられて嬉しいのか、お母様はニコニコし始める。

 可愛い。いや、それはそうだけど問題はそこじゃない。


「あーでもあれですね、王子さん背が高いから無駄に谷間を見せつける事になりそうですね」

「ふぇ?!」

「でも恥ずかしがってちゃダメですよ?隠そうとしたら見たくなりますし」

「カトレヤ、」

「そもそもそのうち全体的に見せることに」

「カトレヤ!」

「怒った顔もすき」

「、話を逸らすな…」


 うっとり愛の告白をするお母様、可愛い。お父様はお父様で、アイちゃんの前で際どい話をしていたことに怒っていたはずが不意打ちをくらって真っ赤になって、とても可愛い。

 会話の内容にも照れ合う両親にも特に動じないすまし顔がやっぱり可愛いアイちゃんは、リズミカルに動かしていたペンを止めて私を見つめる。


「お姉さま、ふらち者の目をつぶすべきかどうかはともかく一度着てみた方がいいと思います」

「さらっと王族(ハイド)様を攻撃しようとしちゃダメですよ」

「すそふんづけて転んだらそれこそ丸出しですよ」

「え」

「制服のワンピースでもよくつまずきかかってるでしょう?そんなふりふりツルスベ生地、すってんころりんすぽーん!です」


 確かに。押さえてないから足元いつもより見えないだろうし。

 でもアイちゃん、わたしを心配してくれているんだよね?心なしかワクワクしているように見えるんだけど、気のせいだよね?


 アイちゃんの顔が見えない位置にいるお父様にはわたしと同じ懸念はないようで、発言について考え込んでいる。可愛い。


「…そのパーティはダンスがあるのかな?」

「詳しくはまだ…あらゆることが急に決まったそうで」

「それも、そうか」

「あ、でも、仲良しアピールしてねとは言われました。…仲良しアピールってなんでしょうか?」

「婚約関係が順調であると周囲に知らしめたい、ということだな」


 …ご安心くださいお父様。出だしから何もかも順調です、ええ。陛下の計画通りという点においては。わたしたちの仲?聞きたいですか?


 頭を抱え始めたわたしにアイちゃんがゆっくり声をかける。


「お姉さまが思う仲良しカップルはどんなものですか?」

「それはもちろんお父様とお母様です!」

「なら、お母さまがお父さまにしてることすればいいと思います」

「…え?」

「何事もまずもほうから入るべきと私のししょうが言っていました」

「アイちゃん、何の弟子入りを、」

「よって、第一王子にしだれかかり上目づかいでこだねを要きゅ」

「アイリス!!」


 お父様のお説教ハードモード突入を感じ取り、アイちゃんはしゅっと姿を消した。でも机の下に潜っただけとお父様にはバレているのですぐに捕まってしまう。無表情で焦っているアイちゃん、可愛い。


「私のマネするとアルちゃんが痴女になるからやめましょうね」

「お、お母様は痴女じゃありません!お父様と子どもが大好きなだけです!!」

「? ありがとうございます」

「礼を言ってる場合か、子どもが聞いているところでああいうことを言うなと散々、」

「アピールは別に、意識しなくてへーきだと思いますよ。いつも通りに王子さんと話しててください。愛の女神の歌巫女がほしょーします」


 言われたことにきょとんとしてると、お母様は自信たっぷりに片目を瞑った。可愛い。心臓を撃ち抜かれたかと思うくらい可愛い。


 …はっ!よかった、体に穴は空いてない。じゃなくて、


「でも、いつも通りじゃほぼ会話になりませんよ?」

「だいじょーぶです、アイちゃんのおししょーさんのおすみつきでもありますから」

「おししょー。お母様もご存知なんですか」

「人をたらし込むヒギを教えてくれるましょーさんです。たいへんいい匂いがします」

「お母様?」

「私も昔はお世話になりました…才能がないってハモンされましたけど」

「そんなっお母様はものすごく可愛いです!」

「下手に技術にこだわるな、思うがままに行動しろ…あの送る言葉のおかげでアルちゃんたちに会えました」

「おかあ、え?ーーアイちゃん何の修行してるの?!」

「それよりダンスですよねぇ…王子さんくらいの背丈の人で予行れんしゅーできればいいんですけど。あの人ライさんより高いですよねぇ。キャンディさん借りれますかね」


 …そんな可愛い名前の人、いたかしら?


 頭の中の薄っぺらい人名図鑑をめくっていると、アイちゃんへのお説教で頭のツボを押している最中のお父様が困った顔をしていることに気がついた。人名図鑑が吹き飛ばされるくらい、お父様が可愛い。ツボが効いてへの字口になっているアイちゃんも加わって図鑑はもう散り散りだ。


「…シオンがいい顔をしないだろう」

「色々困らされてるんだからちょっとくらい仕返してもいいんじゃないですか?」

「その後が面倒だ」

「…そーですね」

「あの、そもそもキャンディさんってどなたですか?」

「ああ、へーかのいとこのおにーさんのことです。へーかはその人が正式な手続きを踏まないまま女の子と仲良くすると倫理観が空の彼方へ飛んでいっちゃうそうで、非人道的なこーいをへーきで行います」

「陛下が、ですか?」


 日頃からメチャクチャだとお城の人が叫んでいるのは聞いているけど、そんな酷いことする人には思えない。


「…前に、夫のいるご婦人に言い寄られているところ目撃した陛下は、そのご婦人が自身に惚れるように仕向けた上で、夫がいる場で言い寄らせてと、まあ、簡単に言えば破滅させた」

「ひょえ?!」

「具体的にどうやったんですか?」

「…アイリス?知ってどうする気だ?」

「そのたくえつした技術にかんぷくしていけいの念を深めます」

「…お前の師匠とやらの正体がわかったよ。これ以上変なことを教えないように抗議してくる」

「私が勝手にしとあおいでいるだけです!」

「パーティの内容の確認のついでだ、大人しく課題をしていなさい」


 食い下がるアイちゃんの可愛さに撃ち抜かれたのはわたしだけのようで、お父様はテキパキお城に向かう準備を始める。行動力のあるお父様、可愛い。


「別にね、特別なことした訳じゃないんですよ。ただあいさつの時に普通の人に対してよりちょっと長く見つめて、ほんの少し優しめに微笑みかけただけ。あの顔だからできる離れ業ですね」

「ーーさすがししょう…」

「カトレヤ!」


 お父様の心配も気にせず色々教えちゃうお母様も、珍しく明らかにキラキラした目をするアイちゃんも、とても可愛い。

 こんなに可愛い家族に囲まれて、わたしはなんて幸せなんだろう。








 …あれ、何か大事な問題があった気が…?

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