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王子殿下と想定芝居  作者: 堂 ジヨン
第一幕 誰ですか馬車をひっくり返したのは
10/15

1.10王子殿下とわたしの帰宅


 サントウィラード皇子の第四妃さんの最後の言葉によって完全に居たたまれない空気になったわたし達を乗せて、王宮からブリオニアに向かう馬車は進む。


 次。次って何。着心地はいいけど触り心地ってどっちから見てですか…?


「…ああいうのはお母様には似合っても私には似合わないと思うんですよ」

「その話題を口にするな」

「いっそ心ゆくまで話したほうが気まずさもすっきりするかと思いまして」

「なら一人で窓の外に向けて俺に聞こえない様にして話せ」

「そんなのただの奇行じゃないですか!」


 床を一緒にした仲なんだから、これくらいのことは共に乗り越えてほしい。


「…顔赤いぞ」

「ちょっと自爆しました。あのですね……耳ふさがないで聞いてくださいよ!なんで目まで瞑るんですかっ」


 そうだ、この人読唇術使えるんだ。

何が何でもわたしの自爆源を知ろうとしない姿勢を見てわたしの闘志に火が付く。耳をふさいで両手を使えなくなったことを後悔しても知りませんからね!


「――っ?!」

「『と、こ、を、い、っ、し、ょ、に』…」

「やめろこの馬鹿!」

「みぎゃ!?」


 がら空きの胸元に指で文字をつづっていたらすごい勢いで頬をつぶされた。これはわたしと同じくらいの被害を受けたということでしょう。ほっぺたはジンジンするけど目論見が叶ってにっこりする。


「ふふふ、ほうへふ。ははひほほなひふらいひはははへはふはっはへひょう?」

「何を言ってるかさっぱりわからんが、人の体をベタベタ触るな!」

「ほへはほふへひひゃはひへふほ?!」


 なんてこと、王子殿下にただベタベタ触る不届き者になってしまった。




 全く意図していない罪を犯したわたしだけど、しばらくしたら頬は解放された。

まだ少し痛むそれをさすりながらしょんぼりしていると、ハイド様が心配そうにのぞき込んでくる。


「悪い、つい手加減なしにやった」

「わたしは罪人です…殿下に無遠慮に触る極悪人です」

「……そこまでのことでは」

「ただ指文字で何を考えて恥ずかしくなったのか共有しようとしただけの、愚かな犯罪者です」

「……」


 しょんぼりしょんぼりしていたら目の前に手の平が差し出される。意図がわからず困っていると、苛立ったようにもう一方の手でわたしの手を取る。人差し指だけ伸ばした形に整えられて、ハイド様の手の平の上に乗せられる。


「ここにさっき書こうとしたことを書け。だいたい、胸に書かれたら文字が反転して分かるわけないだろ」

「…確かに」

「いいからさっさと終わらせろ」


 耳も目も開放している人になぜわざわざ指文字でお話するのだろう。しかも、内容が内容、だし。


「や、やらないとだめですか?」

「お前が言いだしたんだろ」

「そう、なん、ですけど…」


 冷静になって見ると物凄く恥ずかしいことだと気づく。でも、差し出された手は動きそうにないし…。

 いろいろと諦めてゆっくり文字をつづり始める。これがなかなか伝わらない。単語をどこで区切るのかとか、ルールを決めてないとこういうの上手くいかないみたい。


 …え?ハイド様が分かるまでわたし、この文を書き続けるんですか?






 何度も何度も繰り返し書いているうちにブリオニアの王都が近づいてきたらしい。

御者さんが車内とつながる窓を開けてそう伝えようとしている最中に、ハイド様は文章の全容を理解した。つまり、


「お二方、そろそろ王都で」

「――お前は何を言っているんだ!!」


 こうなった。

 わたしに向けられた怒声を不運なことに浴びてしまった御者さんは、訳も分からずハイド様に謝っている。ごめんなさい、なんかもう、ごめんなさい。






 乗り込む前より気まずくなってしまったけれど、きちんと降りる時に手を差し伸べてくれる。馬車は車高が高いから、降りる時に支えがないと転んでしまう。石畳の上にこの高さから転がったら大惨事必至なので、大人しく手を借りる。


「ありがとう、ございます」


 もじもじお礼を言うと射抜かれるんじゃないかというくらい鋭く睨まれた。恥じらうだけで罪ならあなたを前にしたご令嬢方みんな投獄されてしまうでしょうに。



「―――随分と睦まじくなったようだな」


 不意にかけられた低く柔らかい声にハイド様の身体が強張る。ついでにわたしの手を強く握ってきたのでわたしも強張る。痛い、痛いです。


「お前とは体のつくりが違うんだ、ご令嬢をそんな粗末に扱うんじゃない」

「…こんなところで何をなさっているんですか」


 静かにわたしの手を解放したハイド様は、声の主の方に体を向ける。わたしも慌てて臣下の礼をとる。お顔を拝見していないけど、この声の持ち主を間違えるなんてあるはずがない。


「ご挨拶だな。出迎えに決まっているだろう」

「わざわざ御自ら、ですか?」

「空いてるのがわたししかおらなんだ」


 それはどういう状態なのだろうと少し顔を挙げたら、すぐ近くに大層綺麗なお顔があった。


「のわっ」

「いつになったらその奇声を懐かしく思えるようになるのだろうね」

「た、大変失礼を致しまして」

「固くならずとも良い、楽になさい」

「キョウエツシゴク…」

「…使い方が違う」

「では何と言えばいいんですかハイド様…あ!」


 ついうっかり愛称で呼んでしまった。呼ばれた方は顔を引き攣らせ、聞いた方は何やら思案顔になっている。


「ハイド、ね」

「あの、道中尊きお方と判ぜられては災禍免れぬと思いいたり候えば」

「落ち着け。ただの怪しい人間になってるぞ」

「どうでもいいが、早いとこ家にお戻り」

「え?」


 いくら何でも報告もなしに帰宅していいわけがない。そう思ったのが顔に出ていたのだろう、柔らかく笑んだ人は、しかしなんだかとんでもないことを言い始める。


「其方の母君は其方らの行方が知れぬと知った途端に臨月なのも忘れて探しに行くと言い張りその夫と長男は必死に止め続け。それでも聞かぬから教堂の連中まで総動員で母君を見張っている。

そこな小僧の母親は襲撃に遭って返り討ちにできないなどソリダスターの血が泣いているとやはり探しに行こうとし、ついでに小娘の方も何か言って出ていこうとするからわたしのもう一人の妻が宥め賺し諫め説き伏せ城内の者に命じてこの二人が出て行かない様に見張らせている。

挙句にソリダスター家の方も勝手に動こうとするので宰相殿とその子息で止めに入っている。常はその役を担うアコニト殿がちょうど胃潰瘍を起こしている時期だからな。

おかげで城内は非常に手薄で国王は好きなだけ出入りができる」


 流れるように説明されたことを頭の中で繰り返す。

 えっと、今忙しいのは。お母様とお父様とアレクと、アカンサ様とストル様と王后様とお城の皆さんと…。


「本当に手が空いているのが陛下だけだったんですね…?!」

「そう、だからね、小さな女神様(アルディジア)。早く元気な顔を見せてカトレヤを大人しくさせておくれ。正直うるさくてかなわん。ついでに小僧、アカンサが一から鍛え直すと息巻いているからさっさとしごかれて来い」


 そうしてぺいぺいっと手で追い払うようなしぐさをしてわたし達を城門の方へ追いやると、さっさとわたし達の乗っていた馬車の後ろ、ミネオーアの使者さんが乗っている方に歩いて行ってしまう。


「ハイド様…」

「……話が本当ならお前はさっさと帰れ。卿とアレクが不憫だ」

「ハイド様はどうするんですか?」

「俺は……」


 ちらっと通り過ぎていった人の背を見たハイド様は、いつもの様に淡々と言う。


「陛下の、護衛をしてから行く。母上の訓練は後からでも同じことだからな」


 それ以上何も言わないから、大人しく礼をして自宅に向かう。


 あの方は、お父様とお母様の大切なお友だち。

 この国で唯一、赤と緑、青と白の4色…新旧主神2柱の色全てをまとうことを許された人。


 

 そうして、ハイド様のお父様。





 実家の主教堂は王城から目と鼻の先。本当なら爵位を継ぐ予定のないお父様とその家族のわたし達は別に家を構えるべきだしできないことじゃないのだけど、お爺様と伯父様が一緒に暮らしてほしいと言ってくれるから、ここがわたしの家。


「ただいま戻りました」


 大きな声で挨拶するべきだろうけど、なんだか声が張れなくて。それでも聞き取ってくれたみたいで、足音がした。


「――アル!」

「お父様」

「よかった、怪我はないか?どこも痛くない?」

「はい。ご心配をおかけして、」

「そんなことはいいんだよ、無事で帰ってきてくれたから」


 そう言ってこつんと額を合わせてくれる。とてもほっとした表情だからなんだか泣きそうになってしまう。


「出迎えに行けなくてごめん。カトレヤから目が離せなくて」

「今は離してていいんですか?」

「それもそうだ…だが、アレクとアイリスがいるから…」

「姉上―――!」

「お姉さま!」

「…駄目だな」


 お父様はそう言いつつそっと私から離れて二人が傍に来れる様にする。流れるようにアレクとアイちゃんが飛びついてきて倒れそうになったところを支えてくれさえする。さすがはわたし達のお父様。


「怪我はない?どこも痛くない?」

「ふらち者に何かされていませんか?」

「こらアイリス!」


 お父様とまるきり同じことを聞くのはアレク。

 今8歳だよね?と言うようなことを聞くのはアイちゃん。

 いつも通りの弟妹の様子がうれしくて、2人まとめてぎゅっとしてしまう。


「何もないですよ。ありがとう二人とも」

「良かったです…母上も心配してたんですよ?」

「むしろ救出に向かおうとたけり立っていたという方が正しいのでは――こんな風でしたし」

「え…可愛い……え…?」


 もはやお母様の真似をするアイちゃんが可愛いのか元々のお母様が可愛いのか良く分からなくて混乱して来たら、ぱたぱたと駆ける音が聞こえてきた。ハッとしたお父様が慌てて音のする方向へ向かう。


「アルちゃん!!」


 ゆったりとした寝間着にカーディガンを羽織ったお母様が突進してきた。お腹が大きいのに何という無茶を。慌ててクッションになろうと思ったら、お父様が間に入って難なく受け止める。


「ひどいですララちゃん一人だけ先に行ってお出迎えするなんてぇっみゅ―――――――――!!!!」

「走るな騒ぐな安静にしてろ!アルの方がお前の部屋に行くのが一番安全だろ」

「やっ!!」

「子どもじゃないんだちょっとは落ち着け」

「アルちゃんこっち来てくださいぃ~」


 お父様に抱え込まれて身動きが取れないらしく、悲しそうにわたしを呼ぶお母様。可愛い。

 言われた通り傍に行くと前触れもなく頬をもにもにされる。お母様の手は小さくて可愛らしい。そうしてすべすべで温かい。要するにこの接触は非常に幸せです。


「このもちもちさ…間違いなく私達のアルちゃんですねっ」

「何故偽物を疑う」

「万が一ということもあるじゃないですか」

「お姉さまが偽物だったらどうするつもりだったんですか?」

「本物を探し出して2人まとめて一緒に暮らします。どっちも可愛いから」

「なるほど…母上らしい考え方ですね」

「馬鹿なこと言ってないでベッドに戻るぞ」

「一緒に寝てくれるんですか?」

「馬鹿なことを言うなと言ってるだろ!!」


 「一緒に寝てくれないなら戻りませーん」と言いながらお父様と追いかけっこを始めようとした瞬間に、お母様が固まる。



「お母様?」

「これは…出そうですね」

「え?」


 神妙な顔をしていても可愛いお母様を見て、アイちゃんがぽつりと言う。


「出る、じゃなくて産まれる、では?」

「そうとも言いますね」

「――ちょっと待て頼むから待ってくれ」

「そう言われても。あ、出る出る」

「アル、部屋の準備を。アレクとアイリスはお爺様たちを呼んできてくれ」


 大慌てのお父様はそれでもちゃんと指示を出してくれる。一人で歩けなくなったお母様は横抱きにされてとっても嬉しそう。可愛い。


「このままお散歩いきません?」

「大人しく産む気はないのか…やめろそんなしがみつかれたら前が見えない!」


 いけない。可愛いお母様に呆けていては部屋の準備ができない。

 ああ、でも可愛い。お父様にすりすりしているお母様が可愛い…。








 視界が歪んでちゃんと見えない。これではどうしようもない。

 すぐそばのベッドに腰掛けているお母様が心配そうに顔を覗き込んでるけれど、それも良く見えない。


「アルちゃん、そんなに泣いたらおめめが溶けちゃいますよ」

「……初孫誕生時の父さんより泣いてるな」

「ええ?私、ここまで号泣してないよ?」

「嘘言わないでください。鬱陶しい程泣いてたでしょう」

「え?今まさに泣きそうだよ?」


 お父様とお爺様、伯父様の話声も聞こえる。聞こえるだけでやっぱり見えない。


「姉上、双子たちがしょっぱくなります」

「味付けみたいですね。砂糖かけたらちょうど良くなります?」

「絶対にダメだからな」


 涙が双子ちゃんたちにかかっているらしい。慌てて止めようとするけど止まらない。

 だってしょうがないじゃない。


「う、うぅぅぅぅ…可愛い……」


 温かくて柔らかくて。小さくてほんの少し重い。

 わたしの腕に収まっているものは奇跡そのものなんだもの。


「う、今回は、間、に合いま、した…うれし、い……」

「仕事が忙しくてなかなか立ち会えないお父さんかな?」

「う、うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……ぅ、ひぐっ」

「流石に泣きすぎじゃないか」

「アル、ちょっと落ち着きなさい」

「と、止まんないですぅ…可愛いぃぃ……」


 お父様たちが困っているのが聞こえるけど、これは干からびるまで止められない気がする。

 そっと誰かが立ちあがって傍に立つ気配がした。背の高さから言ってアイちゃんかな。


「双子たちが可愛くて仕方がないんですね」


 当たりだ。静かだけど鈴みたいな綺麗な声は、しゃくりあげるわたしを意に介せず流れるように続いて行く。


「わたしとどっちが可愛いですか?」

「……え?」


 わたしも流れる涙をそのままにアイちゃんを見る。可愛いお顔がじっと見つめている。すまし顔なのはいつも通り。お人形さんみたいで本当に可愛い。


「わたしと、双子たち。どちらの方が可愛いですか?」

「あ、アイちゃん…?」

「……すぐに答えてくれないんですか?」

「え」


 お人形のような顔が悲しげに歪む。え。待って。目まで潤んでませんか?


「信じてたのに……」

「ま、待ってくださいそんなつもりじゃっ…あの、アイちゃんもこの子たちも可愛いのは事実で、その2つの事実は決して背反関係にはなくてですね」

「――泣き止みましたね」

「え」

「あんまり泣くとお姉さまの具合が悪くなりそうでしたから」

 

 よかったよかったと言って、元いた位置に戻るアイちゃんの背中を呆然と見る。ついでに周りの皆も呆然としている。いや、1人は違う。


「アイちゃんは将来有望ですね」


 にこにこしているお母様。

翻弄してくるアイちゃんもそれはそれは可愛いですが、軌道修正しなくていいんですか?








**************************


「で、ですね。双子ちゃんたちは男の子と女の子だったんですけど。あの2人が可愛いのは当然として、魔性のアイちゃんもとても可愛いんです」

「…」

「ついでにアイちゃんの将来を深刻に心配しているアレクも可愛いですし、にこにこ見守っているお母様とその後ろで悩んでるお父様もとても可愛いんです」

「…アル」

「はいっ!」

「黙ってろ」

「はい…」



 双子ちゃんたちをはじめとした家族と楽しく過ごすこと数日。王城で馬車ひっくり返し事件の聞き取りが行われることになった。


当事者のわたしはもちろん、保護者たるお父様も呼ばれている。お父様はお医者さんのお仕事をしてからそのまま行くということで登城はわたし一人。小さい頃から何度も訪れてはいるけれど、一人で来るのは初めてで、なんだか新鮮。

謁見の間に案内されたら一緒にひっくり返された仲のハイド様が先に待っていたので、ここぞとばかりに家族の話をしたら怒られた。家族にはもう十分話したのであとは外に話すしかないのに。



「――だからその顔をするなと何回言えば」

「あ、陛下たちがいらっしゃいますよ!前向きましょ前!!」


 ついとんがってしまった口のせいでほっぺたが被害を受けそうだったけど、丁度陛下と王后様、側妃様がいらっしゃったのでわざとらしく話をそらす。ハイド様は何か言いたげだったけど、そのまま前を向く。


 一緒に陛下への礼をしようとしたら楽にしていいとすぐに言われる。王后様からやんわりと咎められても陛下は気にしない様子だ。頭の位置に困っていたら王后さまも困ったように笑って楽にしていいと仰る。ありがたく楽な姿勢になります。あ、お父様。陛下のことそんな呆れた目で見ちゃだめです。


「弟妹が生まれて離れがたき所に呼び立ててすまんな。あらましはそこな小僧に聞いておるのだが、どうしても両者揃った上で確認したいことがある」



 玉座に座ってちょんと頬杖をつく陛下は今日も大変おきれいだ。王后さまも麗しい。

 側妃様…つまりハイド様のお母様はなぜかいつもドレスじゃなくて文官の服を着ている。王城の制服がかわいいデザインだからかな。丸い襟や小さなリボンが側妃様の小鳥を思わせる顔立ちに良く似合う。

 そうして三人そろうと、なんだかとっても安定する。場と言うか空気と言うか。


「本来なら其方の細君もいるべきかもしれぬが…まあ無理はさせられんし呼ぶと喧しいからな」

「陛下?」

「怒るなよ…大体、わたしは一体何人名付ければ許されるのかね」

「どこに逃げようが必ず付けていただきますので悪しからず」

「…まあいい、ともかくだな、聞きたいことは1つだけなんだ。アルディジア」


 不意に声をかけられて体がはね、続く言葉が聞き取れなくて首をかしげる。


「其方が倅の“―――”というのは本当かね?」


 わたし以外も陛下が何と仰ったか分からなかったみたい――ハイド様を除いて。

 その言葉を聞いたとたんにハイド様の顔色が変わったから、きっと何か大変なことを言っているんだろう。


「陛下、それは」

「お主には聞いておらん」


 ハイド様の方は見ずに陛下はきっぱりと言う。力が籠った言い方ではないのに、ハイド様は固まってしまった。


「アルディジア、其方はサントたちに同じように聞かれた時何と答えた?」

「同じ…?」

「ああ、言い方を変えてしまったな。サントはこう言ったそうだな。其方らに同行した者達から聞いた」


――ウス君の―――って言うのはホント?ウス君が言ったことはホント?


 サントウィラード皇子の声色そのままに陛下が問いかける。


「…確かに、そういう音で何か聞かれました。それで、“はい”と答えましたけど…」


 やっぱり何も確認しないで言ったのがまずかったのかな。


 だんだん不安になってきてハイド様の方をちらっと見る。顔が真っ青だ。どうしよう、ものすごいまずいことしたみたいだ。どうしたら、いや、そもそも償える系の物でしょうか?

 そんなわたしの動揺とは裏腹に、陛下はいつもと変わらぬ柔らかい笑みを湛える。


「そうか。聞いたかラルゴ」

「…ミネオーア南部の言葉はあまり聞きなれないのですが」

「ああ、悪い。サントの真似だとそうなってしまうな」


 そっか、サントウィラード皇子の出身って南の方だったんだ。訛りがあるってことは公用語とは違うんだろう。

 なるほどだからわたし以外の方々も聞き取れないという反応をしていたのねと納得し、


「其方の長女は我が愚息の婚約者らしい」


 続く言葉に思考が停止した。


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