修羅場になっちゃうよ?
「シェリー様、卒業パーティーの件でございますが、リハーサルの日程が決まりました」
わたくしは秘密のお部屋で肩揉みの真っ最中だった。先程の授業まで影武者を演じていたけど、コイツが急に授業へ出ると言うので、慌ててエミリーがヘアメイクを施し、目覚めのマッサージをわたくしが行なっているのだ。
「卒業パーティーか。ね、お酒出るのかしら?」
「……出ないと思います」
お酒の事が一番気になんのかーい! それよりアンタ、パーティーで婚約破棄されるんだぞー! ぷぷぷっ……まあ、今のうちに余裕こいてなさーい!
「それとですね、パーティーではエリオット様のエスコートがあると思いますので、事前に打ち合わせをなさった方が宜しいかと存じますが?」
「えーっ!? 打ち合わせー? ……まあ、そうだろうねえ。わたくし婚約者だし、エスコートされて当然だわね」
いえいえ、エスコートされない気がするなァ。
ここは敢えて意地悪な仕掛けをした。コイツはこれまで殆ど王子様と話してない。会話すればするほどボロが出るだろうと予測しての策略だ。しかもエスコートはお断りになられるだろうから、婚約破棄を少しは予感するかもしれない。
「あー、でも彼とお話するのは面倒臭いわ。アンタが確認しといて頂戴」
「ーーはい?」
「いいわね! 明日、わたくしの代わりに王子と打ち合わせするのよ!」
「あ……」
馬鹿女はそう言い残し、秘密のお部屋を颯爽と後にした。
し、しまったー! そーきたか! 影武者のわたくしが、あの御方とお話するなんて想像もしてなかったわ! どうしましょうー?
***
翌日、何時もの様に影武者として登校した……。
ああ、やっぱり用務員に戻ってからお話した方が良いよね。「卒業パーティーでシェリー様をエスコートしますかー?」ってね。「いや、しないよ」「あー、そうですわね。分かりましたー。伝えておきまーす」で済むお話。よし、アイツを待つか!
と、思いながらこんな時に限ってあの馬鹿女は現れなかった。
くそお、このままでは帰れないじゃん。さあどうする? 馬鹿女不在だけど放課後、用務員として接触するか? それとも影武者で会いに行くか?
アイツは確か「わたくしの代わりに」と言ったっけ。取り巻きの目もあるし、やはり影武者で会うのが妥当でしょうね……。まあどうせ冷たくお断りされるでしょうから、さっさと済ませるか。それに突然の訪問に王子様がどう対応するのか興味深いわ。あ、そうだ! そこで態とわたくしの印象を悪くするって手もあるわね。
悩みに悩んだ末、取り巻きを引き連れて生徒会室へ足を運んだ。
ああ……ドキドキするう!
取り巻きがドアをノックする。「はい、どうぞ」とミーア様の声で返答があった。
いや、こりゃ、ややこしいっ! 彼女が居ると、とってもややこしいわ! 修羅場になっちゃうよ?
最悪、女兵士にやっつけられるかもしれないかも!?
わたくしは激しく後悔したーー。