如何なる処分もお受け致しますよ。
「ジャック、とんでもない狂言だ! この場で撤回しろ!」
エリオット王子は新郎の席から立ち上がって私を罵った。しかし護衛に羽交締めされながらも私は叫び続ける。
「これは王子からお聞きしたのですよ! エミリーは皇室のスパイだったって。更にミーアと名乗る女兵士もシェリーを嵌める為に呼んだそうですね? そうまでして公爵家を、シェリーを陥れたかったのですかっ!? あなた方は卑怯だ!」
「な、何を……」
王子は焦りを滲ませる。しかし国王陛下は冷静だった。無言で首を横に振って護衛へ指示した。とっととつまみ出せと言う事だろう。
私は強引に連れて行かれそうになった。
ーーと、その時だった!
「エリオット王子様……」
ポピーが立ち上がったのだ。
「ポ、ポピー? 君は気にしないでいい。お兄様は何か勘違いされてる様だ。退出して貰おう……」
「そうではありません。ミーア様の件、わたくしは王子様からお聞きしました。兄は勘違いなどされておりません!」
「ま、待て……違うんだ。ジャックの言ってる事は間違ってる……」
「はあ? 王子様はわたくしに嘘をつくおつもりですか!?」
「い、いや……」
「貴方は全てが信用出来ません。腹黒いわ! 本当にわたくしの事を想ってるのかも怪しいです!」
「そんな事はない。僕は、僕は君を初めて見た時から慕っていた。一目惚れだったんだ。これだけは信じてくれ、ポピー!」
「だから、シェリーを罠に嵌めたの!?」
「そ、それは……」
『パッシーーーーンッ!!』
「……!?」
信じられない事が起こった。何と、ポピーが王子の頬を平手打ちしたのだ。そして……。
「わたくしは結婚を破棄させて頂きます!」
彼女は大勢の居る前で婚約破棄を声高らかに宣言した。
「ポ……ピー……?」
「それと、エミリー。貴女も許しません! よくも騙したわね!」
「ポ、ポピー様?」
『パッシーーーーンッ!!』
王子の背後に控えていたエミリーにも手を下す。彼女は不意を突く平手打ちになす術もなく倒れた。
「今のはシェリーに代わって叩いたのよ! わたくしは彼女の影武者ですから!」
王子は平手打ちされたショックから、その場へしゃがみ込んでしまった。愛する女性から受けた仕打ちに落胆を隠せない。
「ああ……何でこうなるんだ……ど、どこで僕は間違えた……何でだ……何で……ぶつぶつぶつぶつ……」
陛下は混乱した会場に収集がつかないと判断したのか、披露宴の中止を言い渡す。
「この披露宴は取り止めだ。それとジャック……いい度胸だな。まさかお前が楯突くとはな?」
「陛下、こんな陰謀めいた皇室について行く気がしません。如何なる処分もお受け致しますよ。但し、ポピーは渡しません!」
「よかろう。望み通りの処分を下そう。シュルケン家は領地没収し爵位剥奪の上、国外追放とする! とっとと出ていけ!」
大混乱の中、私はポピーを連れて会場を後にした。言いたい事は言ったつもりだ。後悔はしていない。
***
「お兄様、これからどうなさるのですか?」
「ポピーは好きにすれば良い。実家の伯爵家へ戻ってもよし、私について来るのもよし、自由だ」
「わたくしの養女は継続されてますよね?」
「ああ、正式な手続きをしたからな」
「では、お兄様について行きますわ。妹として」
「そうか……しかし、私はもう貴族じゃないぞ」
「構いません。でもその前に、シェリーと貴族院で虐めた女生徒たちに謝罪がしたいです。でないとこれまでの人生をリセットすることは出来ませんから」
「分かった。過去に犯した罪は決して許されるべきではないが、反省して謝罪するしかない。私も同行しよう。……ありがとう、ポピー。それでシェリーも立ち直れるだろう」
さて、平行して国を出る準備もしないとな……。




