この結婚に断固反対の議を唱えるっ!
二人はわんわん声をあげて泣いた。お互い被害者だったのだ。もう全ての過去を洗い流さなければならないと思った。
ただ、気になる事がある。シェリーの気持ちを確かめた真意は何だったのか?
……が、やがてその答えが分かった。
「お兄様、本来ならシェリーが結婚してた筈です。それを自分の我儘を通す為に陰謀を巡らせ、シェリーの気持ちを踏み躙った王子様が許せませんわ」
「それでシェリーの気持ちを確かめたのか?」
「はい。まだ王子様をお慕いしてないのなら我慢してたかもしれません。でもそうじゃなかった。わたくしはこんな酷い仕打ちをする仕組まれた結婚なんてしたくありません。シェリーは皇室に嵌められ悪役令嬢になった様なもの! 本当の悪役は王子様です!」
「よく言ってくれた。ポピー」
「でも、公爵家に何らかの被害が出ると思います。それでも構いませんか?」
「ああ。例え領地を失っても爵位を剥奪されても国外追放を受けても、皇室のやり方には歯向かうべきだと思ってる」
「お兄様……では」
「二人は私の大切な「妹」だと言ったろ。最後まで守り抜いてみせるさ」
***
「新郎新婦、ご入場です!!」
宮廷の大ホールにて、陛下をはじめ隣国からの国賓並びに多くの貴族が見守る中で、エリオット王子とポピーの結婚披露宴が幕を開けた。司会者が声高らかに二人を紹介する。
「これよりメインテーブルへとお進みになります。皆様どうぞ、お二人に祝福をお送りください!」
割れんばかりの拍手喝采が巻き起こる。新郎新婦は手と手を取り合って入場口から進んで来た。二人とも素敵な笑顔だ。
私は緊張していた。この後、祝辞を述べる予定なのだ。いや、正確には宣戦布告を……だった。
祝辞は先ず陛下が述べられ、続いて来賓の方々が型通りな話をされた。完全なるお祝いムードの中、最後のトリで私がスピーチをする。
「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。新婦ポピーの兄、ジャックと申します。本日はお二人のご結婚、本当におめでとうございます──」
一瞬、会場が静まり返る。
……が、私はそこで一拍置き、声のトーンを変えた。
「──と言いたいところだが!」
「え?」
「えっ……?」
ざわつきが走った。会場に流れる空気が一瞬で張りつめる。
誰もが耳を疑い、私に視線を向ける中、私は深く息を吸い込んで叫んだ。
「シュルケン公爵家はこの結婚に――断・固・反・対・であるっ!!」
……その瞬間、空気が凍った。
笑い声も、さざめきも、すべてが一斉に止む。
国王をはじめとする皇族方の顔に、目に見えて冷たい緊張が走った。
「き、貴様……! 陛下の御前で何を言い出すのだ!」
声を上げたのは、見覚えのある男──バトラーだった。
怒りに震える指で私を指し、激しく罵る。
「ふん、これはこれは。やっぱりお前だったか、バトラー。今さら上辺だけの正義感を振りかざすとは、随分と図太くなったな?」
「な、何を言っている……正気か!?」
「シュルケン家を監視し、あら探しを続けてきた諜報機関。君の後ろに誰がいるのか、私にはよく見えているぞ。まだ足りないのか? もう十分に、傷つけただろう!」
「お、お前……っ、この盛大なる結婚披露宴を、まさか壊す気かっ!?」
周囲が騒然とし始めた。
あちこちから怒声と困惑が交錯し、護衛たちが動き始める。その中には、見覚えのある顔──ミーアの姿もあった。
けれど私は、一歩も引かなかった。
「十年もの間、影武者を立てて国民を欺いたのは、我が公爵家の責任だ。そして、その中心にいた母は、つい先日追放した。だが……!」
私は会場を睨みつけ、声を張り上げた。
「だが、皇室もまた黙ってはいなかった! スパイを送り込み、我が妹を利用し、追い詰めた!──王子、バトラー、そしてエミリー……! お前たちがやったこと、私は絶対に忘れない! 決して、許しはしないっ!!」
「誰かっ、つまみ出せぇぇっ!!」
怒号とともに、護衛たちが私を取り押さえにかかる。
抵抗する暇もなく、腕をねじられ、強引に引きずられる中、それでも私は叫び続けた。
「この結婚の裏にある真実を、知っている者は他にもいるはずだ……! 妹を愛する兄として、これだけは言わせてほしい……っ!」
けれど、私の声は次第に喧騒の中にかき消されていった――。




