会って何を話すんだ?
「ポピー、内緒の話をしていいか?」
彼女の耳元でそっと囁く。
宮廷のミニホールでポピーとダンスの練習をしている最中だった。披露宴で王子と踊る「慣し」の為か、彼女からレッスンを頼まれたのだ。
このチャンスを逃したくない。
ポピーには常にエミリーがついており、二人っきりになる機会は皆無だった。しかもエミリーは皇室のスパイだ。きっと私は監視されているだろう。
幸いダンスのレッスン中、彼女は近くに居ない。遠巻きに眺めているだけだ。私は慎重に話を進めた。
「何ですか、ジャック様……いえ、お兄様」
「怪しまれるから手短に話する。……私はこの結婚に反対だ」
「えっ!?」
「これは長年に亘り王子が、我が公爵家に仕掛けた陰謀だったのだ。いいか、エミリーは皇室のスパイだ。彼女はシェリーの理解者のふりして、アルコール依存症へ導いた張本人だったのだ」
「そんな……信じられません」
短時間で多くの情報を流しても戸惑うだけかもしれない。しかし今しか伝えるタイミングはない。
「王子は公爵家を陥れる為に犯罪を誘発した。我々はそれに引っ掛かかってしまった。無論、影武者を仕立てた我らにも責任はある。しかし、これだけは言える。王子は腹黒くて汚いヤツだ。この結婚はよくよく考えろ!」
「い、今更、わたくしに断る権利などございませんよ?」
「お前も分かっている筈だ。王子の想いは単にシェリーの性格が気にいらなくて、そっくりで良識のあるお前に幻想を抱いたに過ぎない」
「そうだとしても……」
「お前もシェリーも被害者なのだ。このままヤツの思い通りにさせるべきではない」
「お兄様、実はわたくしもこの結婚に疑問を持っていました。王子様は憧れでもあり婚求は嬉しかったけど、心から納得はしていません。でも、断れないでしょう?」
「いや、お前さえ良ければ私が反対の意を唱える。たとえ公爵家がどうなろうと私はポピーとシェリーを守るつもりだ。お前らは大切な妹だからな」
「……わたくし、シェリーと話がしてみたい」
「なに!? しかしエミリーの目を盗む事が出来るのか?」
「いつも一緒とは限りません。それにシェリーとは同じお屋敷に住んでるのですよ。深夜に抜け出して会うことは可能ですわ」
「会って何を話すんだ?」
「確認したい事がございます。今夜、こっそり行こうと思います。お兄様も来てください。でないとシェリーが不安がりますから」
それは危険な行為だと思った。屋敷の中とは言え、エミリーやポピー付きの使用人も住んでいる。まさか四六時中見張ってるとは思わないが、奴らは侮れない。
それに「確認したい事」とは一体何だ?
あまり気が進まないな。心とカラダの傷が癒えてきたシェリーがポピーと会って、おかしくならないだろうか……。
「では、お兄様……」
しかしそれでポピーが納得してくれればと思い、私はシェリーの部屋に行く事を了承した。




