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とっとと失せなさいーーっ!

 シェリーは薬が効いたのか随分と回復した様だ。禁断症状もない。父も彼女が被害者だと自覚され、暗黙ながら屋敷で養生してる事に口を挟まなかった。私も暫くこの屋敷へ滞在して彼女の看病に専念している。


「お兄様、お外に出たくなりました」


「そうか、今日はいい天気だから庭園で散歩するか?」


「はい」


 私はシェリーの手を握り、公爵家の庭園をぐるりと回ってみた。そして小山の手前にあるベンチで腰を降ろす。新鮮な空気を吸って彼女も満足そうに見えた。


「なあ、シェリー。今度、孤児院へ行ってみないか?」


「孤児院ですか?」


「私は時々訪れて色々世話をしてるんだが、まあボランティアみたいなものだ。経済的にも支えている」


「慈善事業ですね。知ってましたけど、これまで尋ねた事はございませんでした。是非、行ってみたいです」


「うん、お屋敷に居るよりカラダを動かした方が良い。医者とも相談して日程を決めよう。勿論、私も行く」


「はい、ありがとうございます」


 シェリーは段々笑顔が増してきた。顔の青痣もすっかり無くなり色艶も良く、本来の綺麗な顔立ちに戻ったと感じる。


 ふと、庭園で騒がしい声が聞こえてきた。


「ライラ、行くわよ!」


 大きな荷物を抱えた使用人らを引き連れて、母とライラが屋敷から出ようとしていた。表に馬車を止めている。


「シェリー、ここで待ってなさい」


 彼女をベンチに置いて母に最後の挨拶をしようと思った。見たところ父は見送りもされてない。


「……お母様」


 母は私に気がつき、横目でチラッと見る。冷ややかな目だ。まるで嫌なものを見る様な目付きだった。


「ジャック、まだ慰謝料貰ってないからね。あの人じゃお話にならないからアンタに請求するから! 近々、代理人と会って頂戴。分かったわね?」


「慰謝料ですか? そんなもの支払うつもりはございません。むしろ請求したいくらいです」


「はあ!? 何言ってんの? わたくしは一方的に捨てられたのですよ? 慰謝料を貰って当然ですわ。どれだけお家の為に尽くしてきたと思ってるの!?」


「お母様、これまで育てて頂いた事は感謝します。が、貴女は大きな過ちを犯した。取り返しのつかないほどのね。私はお父様の決断を支持します」


「ジャック……? それが親に向かって言う言葉かしら!?」


「貴女はシェリーに、我が妹に酷い仕打ちをなされた。彼女にとって貴女は母親ではなかった。私は許さない。……もうお会いする事はないでしょう」


「ち、ちょっと……それはあんまりだわ!」


「二度と我々の前に現れないでください。シェリーは私が立ち直らせますから」


「ジ、ジャック……ねえ、待ってよ……アンタだけが頼りなんだから……知ってると思うけど、わたくしの実家は今や落ちぶれて経済的に苦しいのよ?」


「そんな事は関係ない。とっとと失せなさいーーっ!」


「ひぃぃっ!」


 クルッと母に背を向け私はシェリーの元へ戻った。このやりとりを彼女は見ていただろう。怖くて下を向いていた。


「大丈夫だ。もう安心していい」


 シェリーは小さく(うなず)いた……。


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