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彼女は一身上の都合で辞めるそうだ。

 屋敷の最上階にシェリーの部屋がある。私はドアをノックした。しかし返答はない。寝てるのだろうか、それとも……まさかと思うが嫌な予感がする。少し震えながら再度ノックをしたが変わらない。


「シェリー、入るぞ」


 返答がないままドアを開ける。シェリーはベッドの上で布団を被って寝てる様に見えた。しかし確認しなければ安心しない。


「シェリー?」


 私は近づいた。すると鼻水を啜りながら泣いてる声が聞こえてくる。


 生きてるな。良かった……。


「シェリー、まだ痛むのか?」


「……お兄様?」


 私に気がついた様だ。布団から顔を覗かすと直ぐに逸らした。見られたくないのだろうか? 父に叩かれた青痣(あおあざ)がくっきりと残って痛々しく見える。


「お前の事、分からなくてゴメンな」


 シェリーは啜り泣きながら顔を横に振る。


「わたくしが悪いのです」


「自分を責めるな。私はこれから兄として、お前を守って行くと決めた。だから何も心配するな」


「う……ん……ありがとう」


「お母様が憎いか?」


「……怖い。苦手です」


「そうか。お母様は屋敷から出て行くだろう。お父様とは離縁すると思う」


「えっ!?」


「影武者を考え実行したのはお母様だ。これは許されるべきではない。だからお父様は離縁を決めたんだ。そして共謀したライラもクビにする」


「で、ではエミリーは!?」


「彼女は一身上の都合で辞めるそうだ」


「……そ、そんな……」


「お父様は引き留めた様だが……」


「エミリーは側にいて欲しいよ。お兄様からも説得して頂けませんか!?」


「……なあ、シェリー。彼女は単なる使用人だが、お前にとっては特別な存在なのか?」


「はい。お姉様のように思ってます。わたくしの理解者で味方ですから」


「確かに院では長く一緒にいた。お前に尽くしただろう。分かった、私からもお願いしてみるよ」


「ありがとう、お兄様」


 シェリーは啜り泣きしながらも笑顔を覗かした。


「ところでだな……暫く医者をこの屋敷へ常駐させる事にした。お前はアルコール依存性だ。これからは治癒に専念するんだ。いいな?」


「はい」


「で、気分は悪くないか?」


「……実はなかなか眠れないのです」


「そうか……。でも焦るな。時間はたっぷりある。何も心配する事はないぞ。薬を飲んでリラックスすれば、いずれ回復するだろう」


 シェリーはベッドの上に置いてある薬袋を握りしめて軽く頷いた。


 さて、そろそろ本題に入ろう。


「シェリー、幾つか聞いていいか?」


「何ですか?」


「蔵からワインを取り出したのはお前なのか?」


「……そ、それは」


「正直に教えてくれ。怒ってる訳じゃない」


「……わたくしが頼んでエミリーが持ってきてくれました。悪いのはわたくしです」


「分かった。ではもう一つ、最初に飲んだきっかけを覚えてるか?」


 シェリーは首を横に振った。


「治療するに当たって重要な質問なんだ。辛いのなら無理に言わなくてもいいが、出来れば知りたい」


 彼女は暫く考え込んでいた。すると徐々に記憶が蘇ったのか、途切れながらも当時の状況を話してくれた。



「そ、そうだったのかっ!?」


 私はシェリーの言葉に愕然とした……。


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