どういう感覚してんのよ。
今日もアイツの代わりに登校した。まあ、昼過ぎには来るでしょう。ーーと、思っていたけど昼過ぎても馬鹿女は現れない。……昨晩のお話、気にしてやけ酒でも呑んで起きれないのかしら。或いは揉み返しが激しくて動けないとか?
そんな時に限って面倒くさい事が起こるもの。廊下を取り巻きと歩いていたら王子様とすれ違った。その背後にミーア様が居て、わたくしを見るなり何と王子様の手を握ったのです! 王子様もお澄まし顔で嫌がってる素振りもございませんよ? 更にミーア様はわたくしに「してやったり!」と言わんばかりに微笑んだのです。
これは馬鹿女に対する宣戦布告なのでは!?
そうは言ってもわたくしは婚約者。一応、動揺を隠しつつ微笑しながら礼を取る。いえ、影武者ですけどね。動揺したのは昨晩、馬鹿女を説得するのにミーア様と王子様が相思相愛なのかもと言ってしまったのが、まさか本当なのかと驚いたから……。
「シェリー様、ご覧になりました!? アイツ、微笑みましたよ? これは許されない行為ですわ!」
「そうね……」
取り巻きも興奮している。とてもマズい状況だ。
「池に沈めましょう」
あ、あのね、そりゃ犯罪でしょう? シェリーもお馬鹿ですけど取り巻きも相当な人たちですわね。
「気分が優れないから、また今度ね」
今日はアイツと交代する気配がない。ここはわたくしの一存で決めてもいい筈だよね? 虐める場にシェリー様本人がいらっしゃらないので、お楽しみは取って置きましたなどと、何とでも言えるし。
「まあ、シェリー様!? どうなさったのですか? あんな事されて彼女を虐めないなんて?」
いや、だからわたくし影武者なのよ。
「いつもなら死刑ですよ? シェリー様、お熱が御ありなのでは? 医務室へ参りましょう!」
「……大丈夫よ」
やれやれ。何が死刑よ、どういう感覚してんのよアンタたちって。
それにしても気になる。王子様はミーア様の事を協力者だと仰られた。馬鹿女が如何に酷い人格なのか証明するために、態と虐められる役を買って出ている……と言うのもおかしなお話。そんな危険な行為を許す王子様もどうかなさってるし、ミーア様も何でそこまでするのか理解出来ない。でも、二人が恋人なら考えられない事もない。何としてでも婚約破棄すると言う強い意志がそうさせているのなら説得力があるよね?
何だか王子様とミーア様のご関係を疑ってしまい、気分が本当に優れなかった。
いえ、わたくしの様な使用人が身分違いも甚だしいけどね。でも、この件はもう少し調べる必要があるわ。馬鹿女を説得するためにも……。




