君のこともご報告しなければならない。
ミーアが露骨に虐められてから僕はシェリーを無視する様になった。腹ただしい思いがある。だが元々彼女とは随分会話を交わしていない。子供の頃の「親睦会」は貴族院へ編入してから行っていなかったし、すれ違い様に会釈する程度だったので、これまでと然程変わりはない感覚だった。
僕はそれでシェリーが傷ついてるなんて思ってもいなかった。むしろ傷ついて自業自得だと感じてほしかった。
だが……。
それから間もなくの事だ。思いもよらない出来事が起こった。生徒会室に決して訪れる筈のないシェリーが突撃訪問してきたのだ。
「あっ!?」
一同驚きを隠せない。
彼女は背筋をピンと伸ばして斜めに構え、腕組みしながら上から目線で威圧する。そして口元は微笑を浮かべていた。
「ご機嫌様でございますわ。エリオット様?」
な、何の用なんだ!? い、いかん、動揺する。落ち着け! 落ち着くんだ!
「……これは珍しい。で、僕に何か御用ですか?」
辛うじて微笑を浮かべ対抗する。
「今日は卒業パーティーの件でお伺い致しましたの。王子様? 婚約者であるわたくしの入場をエスコートして頂けますよね?」
そんな事を聞きに態々ここへ来たのか? ま、まあ良い。丁度良い機会だ。はっきり断ろう。
「ああ、その事だが……今回はやらないつもりだ」
「仰ってる意味が分かりませんが。やらない? 正気ですか?」
「卒業パーティーは卒業生のために行うべきだ。僕たちが特別な脚光を浴びる必要はないと思ってね」
「おーっほほほほほ……これはおかしなお話ですわ。わたくしたちこそ特別な存在だと思いますが。だって貴族の頂点、ロイヤルファミリーですよね? それに第一、第二王子様の時もしっかり婚約者をエスコートしてましたけど? エリオット様はその伝統を貴方の一存でお辞めになるのですか?」
「ああ、そう考えている」
「とても信じられませんわ。その件、理事長である我が父に承諾得てますの!?」
「シュルケン公爵にはこれからお話するところだ」
「ふーん。お父様が何て言うかしらねえ?」
僕は段々と腹が立ってきた。感情的になるのはマズいと思いながら、つい彼女を責めたくなった。
「理事長もご理解頂けると思う。それに君の事もご報告しなければならない」
「ーーは? わたくしの事?」
「君は厳粛なる貴族院でワインを飲んで、此処にいるミーアを何度も何度も虐めてるとね」
「……なっ!?」
その瞬間、ミーアは咄嗟に涙を浮かべながら僕の腕を掴み、背後へ隠れる素振りを見せた。如何にも恋人の様にだ。そして僕は感情に流されて彼女を虐めたシェリーをこの場で断罪したくなり、敢えてその演技を続けていく。すると、
「王子様、お好きにどうぞ。それとエスコートの件もかしこまりました!」
シェリーは怒りを露わにそう言い放って生徒会室から出て行った。
正直、少しホッとした気分だ。
だがまあ、これで僕の気持ちも理解されたであろう。少しは自覚してくれたのならこれで良い。
さて、次なる手を打つ為に僕は宮廷へ戻った。ある人物と会わなくてならないのだ……。




