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ではお父様、婚約破棄と言うのは?

 王子様とすれ違うのが怖い。無視されて傷つくのが目に見えてる。だから彼を見ない様に心掛けていた。でも凄く気になる。もしミーアと仲良く歩いてるのを見かけたら嫉妬で狂いそうになるだろう。出来れば院には行きたくないけど、行かなくてはならない理由があった。取り巻きの暴走を止める為だ。


「ミーアをあのまま野放しになさるのですか!?」


「もうほっときなさい。アイツは皇室の推薦で来てるから王子も無碍(むげ)にはできないのでしょう」


 ミーアがわたくしに微笑んだ事が余程気に入らない様ね。でもその時、ポピーだったから全く実感ないけど……。


 ともあれ、取り巻きをなだめるのに一苦労だ。あと僅かでわたくしたちは卒業する。それまでミーアとは何事もなく過ごさなければならない。これ以上、王子様に嫌われたくはない。


 そんなある日の事。


「シェリー様、卒業パーティーの件でございますが、リハーサルの日程が決まりました」


 秘密のお部屋でポピーからパーティー入場の際、慣例となっている王子様のエスコートについて、事前打ち合わせの必要性を問われた。


「えーっ!? 打ち合わせー!? ……まあ、そうだろうねえ。わたくし婚約者だし、エスコートされて当然だわね」


 はたしてエスコートされるのかな……? それに今の状況で王子様とお話するなんてムリ! 絶対ムリムリ!


「あー、でも彼とお話するのは面倒臭いわ。アンタが確認しといて頂戴」


「ーーはい!?」


「いいわね! 明日、わたくしの代わりに王子と打ち合わせするのよ!」


 そう言い放って逃げる様にお部屋を後にした。ここはポピーに取り次いで貰うしかない。きっとわたくしは足が竦んでお話にならないに決まってるから。それにその場で婚約破棄されるかもしれない! そう思うと不安で胸が張り裂けそうだった。だから、ある決心をしたーー。



 ***



「お父様、お話がございます」


 わたくしはお母様やライラの目を盗んで、お屋敷の執務室をノックする。もうお父様に助けを求めるしかない。それほど精神的に追い詰められていた。


「どうした、シェリー。珍しいな」


「小耳に挟んだのですが……、王子様がわたくしと婚約破棄したいと仰ってるのです」


「何だと!?」


 わたくしは感情的になって、お父様の前で涙を流した。


「おいおい、もしかしてあの事か?」


「えっ?」


「先日、王子が私のところへ来て色々言ってたよ」


「な、何を!?」


 お父様に王子様はこう発言したらしい。卒業パーティーで慣例となっている、皇族の婚約者に対するエスコートをやらない。これは自分たちだけが特別扱いされるのは控えたいとの意向だと。でも言い訳にしか聞こえなかった。


 そしてわたくしへの苦情。院内でお酒を飲んで、編入生を執拗に虐めていると……。


「も、申し訳ありません。わたくしはミーアに嫉妬してました。お酒を飲まなければ精神的に耐えられなかったのです……」


「酒を飲むなとは言わん。が、院内で飲むのはけしからんな」


「はい」


「それと編入生への虐めだが……まあ、もうするな。咎めはせん。しかし皇室にも困ったもんだ。突然、編入させろと言われてな。調べたら何の特技もない()()だった。やんわり断りを入れたが押し通されたのだ。察するに……いや、憶測なので言うまい」


「もしかして王子様の()()ですか?」


「かもしれんな……これまでの例もある。だがな、お前は婚約者だ。正室だ。あんな平民など公妾にもなれん。気にする価値もない」


「ではお父様、婚約破棄と言うのは?」


「ありえない。王子の一存では決められないし、今更そんな事言ったら私が黙ってはいない。心配するな」


「……それが聞けて良かったです」


 わたくしは卒業したら王子様と結婚する。その事には変わりない安堵感がある。一方で「王子様に愛人が居てわたくしは嫌われてる」と言う現実に耐えられるか、天秤にかけてもその自信はなかった……。


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