この人お馬鹿さんなんです。
「おいポピー、いつものマッサージしな」
「はい、ただいまっ」
お風呂上がりはマッサージの時間だ。いつもなら面倒くさい気分だけど、わたくしは密かにほくそ笑んでいた。いやいや、想像しただけで嬉しくて仕方がない。
王子様が卒業パーティーでシェリーに婚約破棄を宣言する! こりゃーさぞかし恥ずかしいだろうねー、いや、落胆するだろうねー、なんせ皇族になるのが夢だったんだもんねー。でも、まあ自業自得だよ。ざまぁですわね! おーほほほほほほ!
専用ベッドへ偉そうに仰向けになる馬鹿女も、今日は少々可愛らしく見える。そんな彼女にバスタオルを優しくかけ、凝った肩から腰まで隈なく揉みほぐした。いつもよりも念入りに力強くだ。
「あら、今日は随分と丁寧じゃない?」
「そーですかー?」
うふふと笑っちゃいそうなのを我慢する。……とは言え、わたくしの任務はちょいと厄介だった。
婚約破棄をすんなり受け入れられる様、事前にある程度の覚悟を決めさせておくと言う役目を仰せつかったからだ。確かにいきなし宣言されるとこの馬鹿女の事、何しでかすか分かったもんじゃない。ココロの準備は必要だよね。ただ問題はどう説得するの? これは難問ですわよ! ……でも、やるしかない。わたくしの人生にも関わるからね!
「ところでシェリー様、王子様の追っかけ令嬢ですけど……」
「あん? ミーアがどうした?」
「生徒会室へ入って行く姿を見てしまいまして」
「な、なに!?」
ガバッとシェリーが起き上がろうとしたけど、背中に体重を乗っけてマッサージを続けていたので、どうやら起き上がれずに諦めた様だ。
「わたくし、気になって生徒会室を覗いたのです」
「それで!?」
「シェリー様に虐められたお話をされていました」
「……チッ!」
チッってね。そりゃいつかバレますわよ。
「それを聞いた王子様はとても御立腹なされて」
「あー、マジかー! 何なのよ! ミーアめ!」
「婚約を考え直すと仰ってました」
「そんなのできっこな~い! 考え直す~? あのねポピー、これは陛下とお父様がお決めになった縁談よ。王子がひっくり返すなんてアンタ、出来るわけがないわ~」
な、何よ、その腹立つ言い方!
「うーん、まあそう思いますけど、もしかしたら王子様は陛下を説得するかも知れませんよ?」
「まぁさぁかぁー? たかが王子に群がるムシを懲らしめたくらいでー? そーんなアンタ、くだらない理由で陛下が納得するもんですかー、うふふ」
くだらないとは何なのよ、毎回トイレで水ぶっかけたり靴を捨てたりして……恥を知りなさい!
「でも一応、虐めるのはお控えした方が宜しいと思います」
「ふん! 明日とっちめてやるわ!」
えーと、人の話聞いてます? 馬鹿なんですか? あ、そうか。“馬鹿女”って散々わたくし言ってましたわね。この人お馬鹿さんなんです。これは思ったより手強かったな。
さて、どう説得しましょうか……?