悪いのは大人たちだ。
「報告します。ポピーが影武者を指示されるのは、公式の場へ行かれる時……例えば宮廷でのお茶会やダンス大会、学力テストなど対外的に優秀さを求められる場合が殆どでございます」
「まあ、そうだろうな。あのおてんばでは恥をかくだけだ」
「その間、シェリー様はグレース婦人やライラ女官の言いつけ通り、隠れる様にお部屋で遊ばれていたり、お休みされているご様子。たまにわたくしがお相手致します」
「……で、シェリーは自分ではなく影武者を使われてる事に対してどう考えてるんだ?」
「ただ、言われるがまま……ご指示に従ってるだけの様にお見受け致しました。が……」
「が……何だ?」
「この頃はポピーに当たりが強くなっています。恐らく嫉妬ではないかと……」
「なるほど。大事な場面でポピーが代わりを務めるとなれば自分と比べられてる様で、幾ら能天気な思考を持っていても傷つくって訳だ」
「思春期ですから……それに王子様に嫌われてると少なからず自覚されてると思います。宮廷で上手に振舞うポピーの事もお耳に入ってるでしょうから、余計に腹立たしい感情があるのでしょう」
「ほう。少しは成長したって事かな……」
あれから二年の月日が経過していた。
王子様は何だかんだと理由をつけて公爵邸へ行く機会を延ばしておられた。それでも互いのお屋敷へ訪問すると言う形で、三ヶ月に一度はお会いする様、説得し「親睦の行事」は継続していた。
王子様は段々シェリー様に冷たく接する様になっていく。しかし宮廷へお越しになるシェリー様とは楽しそうに過ごされていた。それもその筈。そのシェリーはガラッと雰囲気が違い、慎ましく礼儀正しいお嬢様だからだ。「あれはポピーだ」と未だに期待溢れる言動をよく耳にする。
つまり、王子様はまだ疑っているのだ。それは願望とも言える。
公爵邸の庭園でお二人の散策を見守りながら私はエミリーと秘密の連絡を取っている。今ではご婦人から信用されている彼女は女官ライラの命でポピーの変装にも携わっているのだ。
さて、これまで私の胸に収めていた重大なる事実を陛下に報告する時が来た様だ。その理由とは……。
「エミリー、貴族院中等部の入学試験はポピーが受験したのだな?」
「はい。わたくしが準備して同行致しましたから間違いありません」
「不正に入学したのか。……これは犯罪だな」
「全てグレース婦人のご指示でございます。因みに成績はトップだったとか」
「ほう。エリオット王子様よりも優秀だとは余程の天才なのか、ポピーは?」
「いえ、勉強もダンスも寝る間を惜しん努力していた様です」
「彼女も苦労してるんだな。似てると言うだけで利用されて。ところでもう一つ確認したい事がある」
「はい、シュルケン公爵の事ですね。御主人様もシェリーの兄、ジャック様もポピーの影武者には全く関与しておりません」
「そうか。では諸悪の根源はグレース婦人だな。あとは実行役のライラか……」
「わたくしも変装に関与してますが……」
「ははは……お前は良い。証人だからな。ではこの件、陛下へ報告し判断を仰ごう。それまで諜報を続けてくれ」
「ははっ」
悪いのは大人たちだ。シェリー様もポピーも大人の思惑に翻弄されてるに過ぎんな。
……そして王子様も。
私はこれまで黙っている事に罪悪感を感じた。




