表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/61

何としても見破りたい!

 母は機嫌が良かった。シェリーが噂と違って、とてもしっかりしていたからだ。これでは僕が嘘をついてる様に思われても仕方ない。


「ねえ、シェリー。ダンスしようよ」


 最早この歓談に意味は無かった。ボロが出るより益々母の印象を良くするだけだ。早々に切り上げ、次なる作戦を実行しよう。


「あら、よっぽどダンスがしたいのね」


「そうだよ、お母様」


「シェリーのダンスは評判らしいから、わたくしも楽しみだわ」


「いえいえ、とんでもございません。わたくしのダンスなど、お見苦しいだけです」


「まあ、謙遜しちゃって。さあ、踊ってらっしゃい」


 皇室専用のオーケストラが軽やかなリズムで向かえてくれた。僕らはミニホールの中央へ立ち、お互い手を合わせる。そして静かに演奏が始まった。


 お母様。よーく見ててね。


 ーーだが、……だが、だが、またしても、


 僕は違和感を感じた。以前とは全く違う感覚だった。軽やかなステップ、そして優雅に舞うシェリーに驚きを隠せない。彼女はスタンダードなワルツを完璧に踊っていた。


 じ、上手だ! 凄いぞ!


 シェリーにリードされてる自分が情けなく思う。


 何故だ、何故だ? これがシェリーの実力なのか? とても信じられない。僕は揶揄われていただけなのか!?


「ね、ねえ、スタンディング・スピン・スペシャルはやらないの?」


「スペシャル……ですか?」


「ほら、公爵邸でやったじゃない。高速回転の!」


「何の事だか記憶にございませんわ」


 え? いやいや、あの滅茶苦茶で自分勝手なスピンだよ。忘れたとは言わせないぞ。パンツ丸出しで転んだじゃないか!


 だが、今日のシェリーは素敵なナチュラル・スピンターンやリバースターンを繰り広げ、見るものを魅了する美しいダンスしかやらない。


 やがて曲が終わり、ホールに居た全員から拍手喝采を浴びた。彼女はドレスの裾を軽く持ち上げ、可愛いらしく礼を取る。


「素晴らしいわ、シェリー!」


 母も感動している。今の彼女は誰が見ても、僅か十歳の少女とは思えない気品溢れたお嬢様だった。


「エリオット、貴方も練習しないとついて行けなくなるわよ!」


「あ、ああ、そうだね……」


 ダンス作戦も失敗した。それどころかシェリーの評判は増すばかりだ。


 この後、庭園を散策するものの僕などそっち退けで母とシェリーが仲良く秋の紅葉を満喫していた。時折笑い声が聞こえてくる。カエルは現れないし、現れてもこの雰囲気なら無視するだろう。


 そして何事もなく、この日が終わってしまった。単に母とシェリーの親睦を深めたに過ぎない結果だった。



 ***



「バトラー、今日のシェリーをどう思った?」


 その晩、バトラーと反省会を行う事にした。公爵邸でのおてんばなシェリーを見てるのは彼だけだし、僕の味方だと信じている。


「素晴らしいお嬢様かと」


「そうではない。公爵邸の彼女とは思えないだろう」


「は、左様でございますね。まあ、王妃様の御前ですから猫を被ってらっしゃたのでは?」


「本性を隠したと言うのか? いや、それにしても変わり過ぎだ。あれは二面性を持った病的な人格だと思う。それとも……」


 ふと、ポピーの顔が浮かんだ。


「あっ!? ま、まさか……いや、幾らなんでも」


「お坊ちゃん、如何なされました?」


 僕はとんでもない推測をしてしまった。


 あ、あれはシェリーではなく、ポピーだったとしたら……???


 それなら納得がいく。だってそっくりだから誰も気づきはしないだろう。


 そうだ、そうかもしれない。幾ら母の前だからって、あんなに人格が変わるのも可笑しな話だ。普通ありえない。


 これは確かめたいぞ。何としても見破りたい!


「バトラー、頼みがある!」


 僕は一策を講じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ