ど、どうなってんだ……?
「お母様、僕はもう我慢出来ません。シェリーと婚約破棄させて下さい」
「まあ、エリオットったら一体どうしたの!?」
宮廷の敷地内に聳え立つ大きなお城の一室で、僕は母に思いをぶつけた。これまでの出来事とともに、どうしても好きになれない婚約者を罵ったのだ。
「そんな風には見えなかったけどね……。でも婚約破棄は出来ませんよ。貴方も分かってるでしょう?」
「でも、すっごく嫌なんだよ! もう会いたくない!」
「あのね、結婚だってまだ先のお話、お互いまだ子供なんだから、性急すぎる結論はよくありません。それに、彼女もこれから公爵家でしっかりと教育受けて、いずれ立派な淑女になると思いますよ」
どうやら母は子供の戯言だと思ってる様だ。だが僕は必死で食い下がる。
「お母様、婚約破棄が難しい事くらい分かってます。でもあんまりにもヘンなんです。……あ、そうだ。彼女とじっくり会って貰えませんか? そうすれば僕の言ってる事が理解出来るから!」
「そうねえ。では宮廷へお招きしましょう」
よしっ……と。実際のシェリーと接すれば、もしかしたらお考えが変わるかもしれない。どう教育したってアレが淑女だなんて無理に決まってるよ。そうそう、彼女とダンスするのも良いな。訳の分かんないスピンを披露させて母を幻滅させてやろう!
僕は早速バトラーに準備を進めさせた。
***
「ご機嫌ようでございます。本日は御招き頂きありがとうございます」
シェリーが付き人を伴い、宮廷に訪れたのは一月後の事だった。
準備は整っている。予定はこうだ。先ず母を交えて紅茶でも頂きながら軽く歓談する。その時点でボロが出るだろうな。でもまだまだこれからだ。次にダンスを踊る。これを拝見すれば、とんでもない令嬢だと確信するに違いない。さらにだ、美しい庭園をお散歩しよう。まさか母の前でカエルを捕まえるなんてしないだろうけど、もしやったらそれは決定打になる。母もカエルが大の苦手なんだ。
……いや、あの日のトラウマが蘇るからそれだけは勘弁かな。
いずれにせよだ、長く一緒にいれば、きっとヘンなお嬢様だと結論付けられるだろう。お父様にも進言してくれるかもしれない。
「ふふふ……」
これから起るであろう出来事を想像すると自然に笑顔になった。
「あら、エリオット。シェリーと会って嬉しそうだこと」
いえいえ、お母様。違う意味で嬉しいんだよ。
やがて僕たちはプライベートダイニングルームで、皇室に献上された最高級のお紅茶を頂いて歓談に花を咲かせた。ボロが出るのは時間の問題だった。
だがーー。
その日のシェリーは何かが違っていた。僕の見てきた彼女ではない。礼儀正しく気品に溢れている。まるで別人の様な振る舞いだった。
「とても美味しいお紅茶ですわ。ベルガモットの爽やかな香りがします。わたくし、このお味が大好きでございます」
「まあ、シェリー。そう言って貰えたら嬉しいですわ。オホホホホ」
ど、どうなってんだ……?




