わたくしにかかってるんだ!
「これは何の余興ですかな、エリオット王子?」
割腹が良く貫禄のある御主人様が、ホール中央に居るわたくしたちに歩み寄って来た。豪快な笑い声とは裏腹に眼光鋭い視線を王子様へ突き刺している。
「理事長、いえシュルケン公爵。これは余興ではない。貴方のご令嬢とは結婚出来ないと宣言したんだ」
「ほ~う……どうやら本気の様ですな。それにしても卒業パーティーで、しかも多くの御父兄の前で宣言されるのは如何なものでしょう? 我が娘に恥をかかすだけの理由がおありなのでしょうな?」
王子様は御主人様から目線を外し、わたくしを冷やかな目で睨みつけた。
ああ、絶対絶命ですわ。ここで悪役令嬢などとわたくしを罵ったところでどうにもなりませんよ。
「シェリーがこれまでしてきた女生徒への虐め、飲酒等々の悪事は既に貴方へ報告した筈だが?」
いえ、だからそんな事仰られても無駄です……。
「ああ、その事ならもう厳重注意として適切に処分したが……まさか、まさかそれだけの理由で陛下とお約束した婚約を貴方の一存で『破棄』なさると? そんな事、出来るとお思いか?」
厳重注意? ……何もございませんが?
「あいにく結婚するのは僕なんでね。陛下にはご理解頂ける様、説得しているところだ」
「何を勘違いなされているのか……お二人の婚約はこの国の繁栄を願って、陛下とわたくしを中心に宮廷の支持を得て決めた事。言わば国家政策だ。それにシェリーは貴族院首席の成績に加え、ダンス全国大会優秀を果たした自慢の娘だよ。ロイヤルファミリーにこれほど相応しい婦人はいないと思うがねえ」
御主人はわたくしの方を見て軽くうなづいた。
「お前も何が言ってやりなさい」
いえ、もう御主人様のお言葉で十分です。でも少々言わせて頂きますわ。
「エリオット様、貴方のお気持ちは十分理解しました。わたくしの至らぬ点は深く反省致します。でもわたくしは皇族に相応しい女性になる様、また将来この国のリーダーになられる貴方のお役に立つ為に懸命に努力してきたつもりです。どうか、お考えを改めて頂けないでしょうか?」
「ふっ……それが本当にシェリーならね」
えっ!? い、今なんと……?
王子様の予想外のお言葉に動揺したわたくしは、さりげなく馬鹿女を目で追ってみた。流石にコイツはこの騒ぎに気がついて、こちらに注視してる様だ。王子様への『ざまぁ』を期待している。
「何の事かね? エリオット王子?」
「それは貴方の自慢するご令嬢にお聞きになられた方が宜しいかと……」
ま、まさか王子様はわたくしが影武者だと知ってらっしゃるの!? 何で? 何で? つか、どうすれば良いの!?
「んん? シェリー、王子は何を仰ってるんだ?」
これはヤバい。わたくしに全ての真相が投げかけられてしまってる! 王子様は最初っからこれが逆転の切り札だとお考えになって、敢えてわたくしをダンスに誘い、捕まえてこの場で婚約破棄を宣言したんだ……。
この結末はわたくしにかかっているんだ!




