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どうなっても知らんわ!

 バイキングコーナーは大混雑していた。エミリーはお料理の取り替えが忙しく、とても馬鹿女の面倒など見れない状態に陥っている。


 それをしめしめとコイツはお酒を仕込みつつ、どさくさにグビッと味見してたに違いない。


 やりそーな事だわ!


「ワイン如何ですか~?」


 馬鹿女はわたくしの冷たい視線を逸らし、御父兄に愛想よくお酒を振る舞ってみせた。


 くそう、何か失態をおかさないか見張っておきたいけど、そうもいられない。わたくしも自分の事で……いえ、アンタの影武者で精一杯だから。


「シェリー様、お食事を取られないのですか?」


「ええ、ダンスが控えてるからお水だけで十分よ」


 本当はご馳走にありつけたい。でも体調管理は大事だ。ここは我慢するしかない。それに次から次へと貴族院の御父兄方から、お祝いのご挨拶を受けていたから食べる間もなかった。


 やがて、オーケストラによる軽快なリズムが会館を覆い尽くす。いよいよその時がやって来たのだ。


 音楽に合わせて様々なペアーがダンスホールへ向かって行く。わたくしも気合を入れてジャック様のエスコートを待った。


 さあ、頑張るしかないよ!


 目を閉じて集中力を高めていると足音が微かに聞こえてくる。音楽という騒音に掻き消されて定かではないけど、きっとジャック様がお迎えに来られたのだろう。


「シェリー様、ご一緒に踊ってください」


 その殿方は片膝ついてお誘いになった。わたくしは静かに目を開けて微笑む。


 ん? ジャック様? いえ、違う!? 違うわ! 待って、わたくしのお相手はジャック様よ。あの、貴方って……。


 エ、エ、エリオット王子様あぁぁーー!?


 な、何で!? 何で!? 何で王子様がお誘いになるの!? 貴方は婚約破棄したいくらいわたくしがお嫌いなのでしょう? 意味わかんないよう?


 でもその碧眼に見つめられるとドキドキしますわ。いえいえ、ジャック様はどちらに? つか、このスチェーション、どうすれば良いのよ!


 想定外の出来事にわたくしは凍りついた。でも、周りから割れんばかりの拍手喝采を浴びてしまう。この国の第三王子様であられる御方と、貴族院首席で公爵令嬢のわたくしたちは、近々結婚するのだ。そういった祝福の雰囲気が会館全体に広がっているのが伝わる……。


 わたくしは判断しかねて馬鹿女をチラッと見た。アイツが首を横に振れば王子様であろうとお断りしようと思う。


 どうするの? アンタ?


 でもアイツはわたくしたちに注目が集まってる事につけ込んで、こそっとワイングラスを一気飲みしてる姿が目に映った。


 馬鹿じゃん! 緊急事態でしょう! ちゃんと指示しなさいよ! もー知らない。どうなっても知らんわ! わたくしが判断させて頂きますからね! 


 まあこの状況で王子様を袖に振るわけにはいかないっしょー。今日の婚約破棄は起こらない筈だから仮面でもフィアンセを演じるべきよ。はい、決まりー。


 わたくしは王子様の手を取った……。


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