密かに対策練っていたの?
「シェリー様、ご質問宜しいでしょうか?」
「んー、なに?」
馬鹿女がグビッっとワインを飲み干し、空のグラスをわたくしに突き出した。おかわりの要求だ。「よいよこのアル中が」と思いながらも仕方なくワインを注ぐ。
「もし、もしもですよ? パーティー会場で婚約破棄を宣言されたらどう受け答えるのですか?」
「はぁ~ん? そんなことナイナイ! ナイヨ~!」
か、軽いわね、可能性は十分あるのよ。それをわたくしがアンタの代わりに受けないといけないの! ったく、人ごとじゃないでしょうが!
「いえ、でも万が一を考えておかないと不安です」
「あ、そ。……まあその時は王子を論破しなさい」
「ど、どう言って?」
「陛下もお父様も婚約破棄などお認めにならなくてよ? って言えば済むわ」
「あの、御主人様とお話されたのですか?」
「そう、アンタがねー、お父様がどうとか言ってたじゃない。だから王子の事、お話したのよ。そしたらね、確かに王子から「やれ、酒を飲んでる」とか「やれ、追っかけ女を虐めてる」とか女々しく言われたらしいの」
言ったんだ。
「でもね、だからなに? なんですかー? まさかそんな事で婚約破棄なんてお考えになられてないでしょうなーって感じで軽くあしらったって! おーっほほほほほほ!」
くっ……正にこの親にしてこの子ありって感じだ。期待してたわたくしが甘かった……!
くそう、何か悔しい! とは言え、パーティーでわたくしが断罪される事も回避出来そうだから、正直ホッとした心境でもある……。
「それとね、エスコートの件だけど良いこと思いついたの」
「……何ですか?」
「入場もダンスも我が兄ジャックにお願いしたからポツーンと寂しい事にはならなくてよ」
「お、お兄様に!?」
ジャック・シュルケン様ーー、馬鹿女の兄とは思えないくらい似ても似つかぬ超優秀な公爵家の跡継ぎだ。そして、わたくしのダンスの師匠……。
「ああ、何とジャック様がわたくしをエスコートなさるの? では勿論ダンスも?」
「そうよ。いいこと? 全国大会で優勝したプロ並みのダンスを存分に披露しなさい。仮に王子がミーアと踊ろうが、ぷっ、ぷぷぷぷ……そんなのアータ、吹っ飛ぶくらいの注目の的になるわよ。ざまぁだわ、女々しい王子め! つまらん告げ口した罰を受けるがよいわ! おーっほほほほほほ!」
こ、この馬鹿女、密かに対策練っていたの? 馬鹿の癖にアル中の癖に、王子様に『逆ざまぁ』を企ててたなんて信じられない!
そしてわたくしも影武者として、その企てに協力しないといけないのか! ジャック様が登場するからにはいい加減なダンスは出来ないし。
さあ、どうしましょう……!?




