第二話 『嫌い』
とある廃工場、虚ろな瞳をした傷だらけの女性がいた。
彼女は『彼女』が嫌いだった。
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私は『私』が嫌いだった。
あの男の娘のこの身体が大嫌い! この指の長さも、形も火傷のあとも嫌い!! 脚の長さも、太ももに残る裂傷も、大きな模様のように残るアザも嫌い!! 身体の傷はいずれ治る。しかし、なによりもあの男の面影があるこの顔が大ッ嫌い!!! 私はあの男の実験材料。もしかしたらあの男が私を探しているかもしれない……もし捕まれば、今度こそ殺される!!!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、
絶対に嫌だ!!!!
気が狂いそうだ……気が狂ってしまう!……もう耐えられない!!
「なんとかしなきゃ・・・・」
整形する? もし整形するなら、顔と身体を丸ごと全部だ。何も考えずに逃げ出した私は、そんな大金を持っていない。
なら諦める? それはありえない! できる、できないじゃなくて『やる』んだ。私にはやるしかない……
工場の壁にはめ込まれた鏡を見つけた。
所々割れているが、自分の姿を写すには充分だ。アンドロイドとなる手術を受けてから、初めて鏡を見た。『装置』に近い胴体は傷が少ない・・・・たぶんあの男が装置を避けたのだ。まず『装置』から離れた部分から痛めつけ・・・・最後に『装置』を潰す。それがあの男の『アンドロイドはどの程度までは死なないのかを知る為の実験』
吐き気がする。『元』娘だった私に対し、よくこれほどのことができるものだ・・ だが、怒りはあまり感じなかった。むしろ『二度とあの男に会いたくない』という恐怖の方が私の中では大きい。思い出しただけで全身が小刻みに震えるほど、私は心底あの男を恐れていた。
彼女は真剣に考える。あの男から逃れ、そして彼女が生まれ変わる方法……
小一時間経った頃・・彼女が口を開き、何かを呟いた。……
その声は聞く者すべてに恐怖を与えるかのように冷たかった。
「そうだ・・これなら私にもできる・・・・」
大きく見開いた彼女の目には狂気が宿っていた。




