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三途の川の渡守

作者: 退役トレーナー

「ここは?」


 今日もまた、地上で生命を終了した人がやってきました。


「こんにちは、こちらは三途の川です」


 わたしは数万回目の言葉を口にします。


「三途の川…私は死んだのか?」

「ええ、ご愁傷さまです」

「そうだ…妻と飲んでたら急に眠たくなって…」

「さあ?私は一介の渡守ですから」


 ここまではいつもどおりですが、ここからは数種類のパターンに分かれます。


「それで死んだのか…死んだ!?

 待ってくれ、私はまだ死ねない!先週に妻と籍を入れたばかりなんだ!」


 この人は死んだことを受け入れられないパターンのようです。

 わたしには死という感覚が分かりませんが、このように取り乱す人が一番多いです。


「そう言われましても、あなたはもう死んでいます。

 あなたの名前を思い出してみてください」

「名前?私の名前は…むむむ…」

「思い出せないでしょう。それはあなたが死んでいる証拠です」


 この方法が一番手っ取り早いと言われています。死んだ人は名前をなくすんです。


「そうか…死んだのか。じゃあ舟を出してくれ」

「それは無理です」

「どうしてだ?」

「三途の川は未練があると渡れないんです」

「なんだと!?じゃあ妻のことを諦めろというのか!」

「ええ、そうです」


 まったく、どうして渡守がこんな役回りをしないといけないのだろうか。


「ふざけんな!夫婦のことなんて、そう簡単に諦められるわけ無いだろうが!」

「でしたら、この丸薬を飲んでください。全てのことを綺麗サッパリ忘れられます」

「誰が飲むか!そんなもの」


 でしょうね。たまに飲む人もいるので、その場合楽だったのですが…


「なあ頼むよ。どうにか生き返る方法はないのか?」

「ありますよ。1つだけ」

「本当か!どうすればいいんだ」

「閻魔様なら、人を生き返らせる能力と権限を持っています」


 ただし、閻魔様に会うためには三途の川を渡らなければいけないですけどね。


「そうだ!この川を辿れば上流につくはず」

「無駄ですよ。この川は無限に続いています。

 下界の法則を持ち込まないでください」


 この人は妻とはもう会えないと悟ったのかガックリと項垂れています。


「じゃ、じゃあ、せめて妻を一目見るだけでいい。

 あんな別れ方は散々だ」


 上げてから落とす方法が効いたのか、この人はずいぶん大人しくなりました。


「いいですよ、それぐらいなら」

「本当か!?」

「ええ、多くの人はそれで未練を断ち切っています」

「ああ!ありがとう!」


 わたしは準備を始めます。

 地獄専用のケータイ(ガラケーです)であるところに連絡を取ります。


『もしもし、こちら地獄サポートセンターです』

「状況は分かっていますね」

『ええ』

「それではいつもどおり頼みます」

『かしこまりました』


 10分ほど待つと、ケータイからホログラムのディスプレイが出てきました。

 どうしてこんな所だけ未来的なんでしょうか。謎です。

 そこには20代後半ほどの美人が泣いています。


『ああ、***(聞き取れません)!なんで死んじゃうのよ!

 ずっと一緒にいようって言ったじゃない!』


 こんな感じの映像が続きました。



「もう未練はありませんか?」

「ああ、ありがとう」


 スンと鼻を鳴らして言いました。


「それでは出発いたします。六文銭はありますね?」

「ええと、あった。これかな?」

「ええ、それです」


 今日も一仕事終えました。

 お世話になったところに電話をかけます。


映像班・・・の方。お疲れさまでした」

『ええ、お疲れさまでした。

 しかし…やはり人を騙すのは後味が悪いですな』

「仕方がありませんよ。未練を断ち切るためですから。

 それに、彼が妻と会うことはもう無いでしょうし」

 更に言うと、入籍してすぐに死亡するとか絶対に詐欺ですね。

『分かってますよ。それではさようなら』

「ええ。さようなら」

昨日の夜なんか頭に湧いてきたので書きました。

いつもとは270度くらい違う作品です。

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