冒険の第一歩
外に出た瞬間に何故か俺は涙がこぼれた。
特に悲しいわけでもなく嬉しい訳でもないのに部屋から出た瞬間だった。
すると、ふと頭によぎったのは、この世界が今後俺の過ごしていく世界なんだと自覚した。
夢ではないことは明らかだった、なぜなら先程俺は自分で装備をつける時に少し指を切ってしまって、その感覚がとてつもなくリアルだったからだ。
いや、実際に剣を触って指を切ったことはないけど、包丁でならある。うん。痛かった。
「ふぅ。とりあえず、最初の一歩は行けた、あとは冒険者ギルドを探してクエストだな!!」
涙を拭い歩き出した瞬間の出来事だった
遠くから何かが光っている、ただの光じゃない、明らかにおかしい、恐らくこれは誰かが魔法か何かを使って戦闘してるかのようだった
途端に恐怖が込み上げ俺は怖くなった、だがもし戦っているのが獣耳少女だったら!?助けに行かなくていいのか!?
そんなことを考えてるうちに体はもう既に動いていた、体が軽い、この世界に来る前の俺はとても体が重かった、それは精神的なものもあるが不摂生な生活をしていたからだ。
「こんな華奢な体で戦闘か。大丈夫かよ。俺。」
光っていた場所につき俺の考えは的中した
「おいっ!!大丈夫か!?」
そこに居たのは獣耳少女じゃない
獣に襲われるひとりの女の姿だった
「っつ!!あなたのような子供が勝てる相手じゃないわ…!逃げなさい!!」
「逃げろって言っても!あんた傷だらけじゃないか!!俺がなんとかする、その間にあんたは回復して応援を呼んでくれ!!」
俺はさっきまで考えていた喋り方を変えるなんてことは頭の中から消えるほどに緊張し恐怖した。
「わかったわ…絶対に無理はしないでね…!!」
女は腰にあったポーチから回復薬のようなものを取り出し自分の口元に当てた、途端に女はとても不味いものを食べた時のような顔になり気持ち悪そうだった。
だが傷は瞬時に回復しすぐに動ける状態になっていた、女は街の方に向かって走り応援を呼びに行ってくれた
「無理するなって言ってもさぁ…こんなん無理しないと俺が死ぬじゃん!!」
俺は腰にあった2本の剣を手に持ち戦闘を開始しようとして獣の姿をまじまじと見てゾッとした…
狼のような顔に体は人型、そして何より腕が4本ある。こんな姿したやつを見てゾッとしない奴がいるわけが無い。
「こええけどさあ…やらなきゃやられるよなぁ…!!」
すると、目の前にいたこいつが途端に襲いかかってきた。
「っと!っぶねえな!!俺がここまで小さくて体が軽くなかったらしんでたぞ!!」
避けることは出来た、何故か相手の攻撃が遅く見えたからだ
攻撃は単調、動きも遅い。だが一撃一撃が即死級だ、拳を振ったときの風圧でわかる。重い。鈍い。
まるで巨人が丸太を振り回してるような音が聞こえてくる。
「とりあえず、これくらいの速度ならまだ対処出来るな!!おっしゃあ!!行くぞオラァ!!」
不思議と剣を振る時に体が勝手に動いた、これはおそらく、この少女が元々持っていた剣術か何かだろう。頭の中にどう動けばいいのかイメージが湧いてくる、剣を振り間合いをとってまた攻める
その繰り返しだった。
何分たっただろう何度斬っても倒れないこいつに心が折れそうになっていた。
その時だった全身に力が込み上げ体が青白く光った
すると、今までの倍以上の速度で動くことが出来、力も数倍に跳ね上がった
「うお!!なんだこれ!?だが、この力と速度なら行ける!!はあぁぁぁ!!」
まず俺はいちばん厄介な4本ある腕を2本切り落とした
『グアァァァァ!!』
獣が痛がるかのように雄叫びを上げた
「行ける!!行けるぞ!!オラァ!!」
それから間もなくして戦闘が終わり獣を倒すことが出来た
すると遠くから光がこっちに向かってきている
「こいつの…援軍か…?もう俺戦う気力ねぇよ…」
全身から力が抜け俺は倒れた
「…ぶ!?…うぶなの!?しっかりして!!」
なんだ…?聞き覚えのある声だ…でも、話しかけてくるってことは敵ではない…よな…
意識が遠のいていく…死ぬ訳では無いそれは分かっていた、なぜなら相手の攻撃はほぼくらっていなかったからだ、ただ疲れて体が動かなくなっただけだ
誰かにおぶられて運ばれているのかかすかに話し声が聞こえてくる
「こんな小さい子が一人でこいつを倒すなんてな…」
「ええ。私も驚いたわ。最初助けに来た時はこんな小さい子が時間を稼げるわけが無いって思ったもの。」
「じゃあ、なんでお前は戦闘に戻るじゃなくて援軍を呼びに行ったんだよ?」
「確信したのよ、このこの目を見て。この子ならやれる、もしかしたら倒してくれるかもしれない…って……。」
そんな会話を聞いていたら意識が完全に飛んでいつの間にか眠っていた。