1,招集
間が空きましたが第一話です。
*塔の名前を変更しました
拝啓 ラーク・レロー様
貴方を第一級時計修理技師に任命します。
また、それに伴い貴方を新たな時計塔の管理人として迎え入れることとなりました。
なお、これは国王の勅令により強制となります。
五日後に必要最低限の荷物のみ持って大正門にいてください、案内のものを向かわせます。そこからはその者に従ってください。
管理人一同心からお待ちしております。
時計塔総統括責任者 ブッシュ・ウォーブラー
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「正午に大正門、だよな」
目の前に聳え立つのは、見上げてもてっぺんがやっと見えるくらい大きな門。
そこで俺は人を待っていた。
とは言っても、デートだとかそんな浮ついたものではない。
どちらかと言えば、憂鬱な気分だ。
それも、五日前に届いたこの真っ黒な手紙のせいだ。
封筒から便箋まで全部黒で白い文字で書かれてるからどこぞの怪しい宗教だとか仮面舞踏会へのお誘いとかだと思ったが、あの時計塔からだったから驚いた。
時計塔、この世界では誰もが知っていて最も謎に包まれた建造物。
この世界で時計は全て個人の所有物だ。
なら、時計塔は?
謎多き時計、近づくことさえも容易ではない時計、そんなもの誰のものなのか。
そこで、人々が出した答え。
それは「神」。
あれこそは神の時計だと、大昔の人は考えた。
それが今でも信じられており、この世界に生きる人々の共通認識になったそうだ。
人は皆、その時計塔を“世界の心臓“と呼ぶ。
世界の中心にあって、機械仕掛けだからこの名がついたそうだ。
神の要素はどこいったとか、安直すぎやしないかとか思うところはあるが、今更変えられないし変えようがないな。
ともかく、そんなところにいる奴だから得体が知れない。
正直に言うと、今すぐに帰って二度寝と洒落込みたい気分だが、現実逃避はこの五日間に嫌というほどした。
……腹を括るしかないか。
そうこうしているうちに正午になったな。
「ったく、案内ってのはどいつだよ」
そうぼやいた直後、
「ラーク・レロー様ですね」
「うお!」
突然真横から話しかけられた。
「そうですが……、あなたが案内人ですか?」
そこにいたのは一人の女性だった。
背はさほど高くなく、美人というよりは可愛らしいという印象を受ける 綺麗な黒髪のショートヘアの女性であった。
「はい、お待たせしてしまい申し訳がざいません。この度、時計塔より案内役を任されました、アルエット・ウーアと申します。以後、お見知り置きを」
「えっと、ラーク・レローです。よろしく」
「はい、よろしくお願いします。では、案内いたしますのでついてきてください」
そう言って、歩き出す。
「えっ、もっと説明とかないんですか?」
「それは歩きながらでも」
振り向く気配もなくどんどん行ってしまう。
置いていかれたら困るので仕方なくついていく。
「塔までどう行くんですか? 確か深い霧に阻まれると聞いたのですが」
「それは塔に認められていないものが侵入した場合のみです、今回は私がいるので大丈夫です」
大正門のすぐ目の前で立ち止まった彼女はポケットから時計を取り出し、十五メートルほどの高さの門には不釣り合いなほど小さい鍵穴にかざした。
すると、鍵穴が一瞬青く光ったかと思うと次の瞬間、扉全体に光が駆け巡った。
「…!」
ゆっくりと大きな音を立てながら扉が開いていく。
その様子に呆気に取られる。
「このように、大正門から塔全体は自分の時計を鍵として用います」
「ちょっ!大丈夫なんですか!?こんなに堂々と扉が開いちゃったら関係ない人が通っちゃうんじゃ……」
そういう間にもどんどん扉は開いていく。
「それは大丈夫です。そもそも認識できませんから」
「え?認識できないってどういう……」
「周りを見てみてください」
言われた通りに周囲を見渡す。
そこは先ほどまでと何も変わらずに多くの人で賑わっていた。
大正門が開くという普段なら絶対にありえないことが起きているにもかかわらず
「誰もこちらを見ていないでしょ?」
そう、誰一人としてこちらを見ていなかった。まるで俺たちは最初からいなかったとでも言うように。
「……本当だ。いや、でも、どうなってるんですか?」
「私も詳しくはわからないのですが、すべての大正門には認識を阻害する効果があります。許可を持たないものは私たちの存在どころか門が開いたことにすら気づきません」
そういう間にも門は完全に開き切り、彼女は濃霧に向かって歩き出そうとしていた。
「さあ、行きましょう。離れずについてきてください」
そう言って歩き出す。
迷わないとは言われたものの、一人ではたどり着ける気がしないので、その背中を慌てて追う。
深い霧が全身を覆う。
肌にまとわりつくような不快感。
視界のほとんどが白く染まる中、ただ目の前の背中を必死に追う。
霧に入ってからどれくらい経ったのか、前を歩く背中から声をかけられる。
「そろそろ霧を抜けますよ」
それと同時に、突如霧がきれる。
はれた視界のまぶしさに一瞬眩むが、次の瞬間目に飛び込んできたのは、雄大にそびえ立つ大きな塔だった。
あまりの凄さに言葉を失っていると、アルエットさんが振り返って少し得意げな顔をして、俺にこう言った。
「ようこそ、時計塔”セフィロト”へ」
まだ慣れていないので読みにくいと思う方もいらっしゃったかもしれませんが、これから精進していこうと思いますのでご容赦ください。