9.呼び出し
「さて、私はアルベルツ。君の名前は?」
テーブルの向こう側に座っている緑のローブを羽織った男の人が口を開く。
「ルーシアと言います」
「では、ルーシア。話を聞かせてもらおうか」
私は何も答えずにじっと黙る。
「どうした?」
「どうしたと言われましても、私はなんでここに?」
「なぜ自分が呼び出されたのかわからないと?」
「はい」
ここは冒険者ギルドにある一室。
偉そうな態度からして目の前にいるのはギルドマスターかなにかなのかな?
緊急依頼の報告をして帰ろうとした私は、いきなり職員に呼び止められてこの部屋に連れて来られた。
しばらく待っているとアルベルツさんが現れたのだ。
ちなみになんで呼び出されたかはなんとなくわかっている。
「先ほど緊急依頼の報告を受けたのだが、その報告の中に少し妙な話があってな」
「妙な話ですか?」
まぁ、これって確実にあのことだよね。
「なんでも見たこともない魔法でモンスターを一掃した者がいて、その者は小さな女の子だったと」
やっぱり……。
どうやら誰かがギルドに報告したらしい。
あの後、そそくさと街に帰ってきたけど完全に怪しまれてたもんね。
アッシュとも何を話していいのかわからなくてほとんど喋れなかった。
「それで、小さな女の子というのは君のことかな?」
これは森をめちゃくちゃにした責任を追及されるやつだ。
一応こんな時にどうするかは、街に帰ってくるまでに何通りか考えていた。
一つは逃げるという選択肢だったけど、これはすぐに自分の中で却下した。
逃げたとしてもどこに別の街があるかわからないし、冒険者の資格を剥奪されたうえに指名手配なんてされたら生きていけなくなる。
何より私といたアッシュに迷惑を掛けることになってしまう。
二つ目は正直に答えるというもの。
これが一番良いような気がするけど、得策じゃない気もする。
別世界から来たなんて信じてもらえるかわからないし、魔法が暴発したなんて言ったら危険人物としてどういう扱いを受けるかわからない。
やっぱりここは、とぼけて誤魔化してしらばっくれて有耶無耶にするしかない!
「小さな女の子というのはたぶん私のことだと思いますが、魔法については知りません」
「ふむ」
「一番前で戦っていたのが私だったので、後ろにいた人たちは私が魔法を発動させたと勘違いしたんだと思います」
全部否定すると怪しいので、あくまで認識が間違っていることを主張していく。
「魔法が発動した時、君から緑色の光が出ていたという報告もあるが?」
後ろから見えるくらい強く光ってたのか……。
「そうなんですか? 気付きませんでした」
「ふむ」
知らなかったことにしておけば、たとえ私が魔法の暴発させたということになっても情状酌量の余地があるはずだ。
実際あんなことが出来るなんて知らなかったし。
それにしても無表情で話を聞きながら淡々と質問してくるので、アルベルツさんが何を考えてるのかわからないのが怖かった。
「そうか、時間をとらせてしまってすまなかったな」
えっ、それだけ?
今の話、信じてもらえたの?
「ちなみになんですけど、魔法を使った人を見つけ出してどうするつもりなんですか?」
責任をとらなくて済みそうなので興味本位で聞いてみた。
「多くの冒険者の命を救ってもらい、ウルフを全滅させた功績に対して特別報酬を与えようと思っていたのだがな」
「えっ」
「どうした?」
「森をめちゃくちゃにした責任をとらせようとしているのかと」
「たしかに森の一部は破壊されたが、人の命や街を守ることが最優先だ。それに比べたら森の破損など些細な問題だ」
それじゃあ、私は勘違いして特別報酬をもらう機会を逃したってこと?
その場に茫然と立ち尽くす。
「話が以上なら帰っていいぞ」
アルベルツさんの口角が少し上がったように見えた。
笑ってる?
ちょっと胡散臭い雰囲気を感じた。
「帰ります。失礼しました」
私はそれだけ言うと部屋を出る。
「ルーシア、大丈夫だった?」
部屋から出てギルドの受付に戻るとアッシュが出迎えてくれた。
「待っててくれたの?」
「いきなり奥に連れて行かれるし、一緒に行こうとしたら止められるし」
どうやら心配してくれてたみたいだ。
「ありがとう、大丈夫だったよ」
とりあえずお咎めがなかっただけ良しとしておこう。
「ならいいんだけど」
アッシュと話していると周りから視線を感じる。
こそこそと「おい、出てきたぞ」「あの子って何者?」と話し声が聞こえてくる。
「とりあえず出ようか」
「そ、そうだね」
居心地が悪かったので、私たちはギルドを出る。
「それでルーシアはこれからどうする?」
森に出発したのが朝早かったので、日はまだ高くお昼過ぎぐらいだった。
一刻も早く自分の能力を確かめないと。
「ちょっと確かめたいことがあるから街の外に行ってみる」
「わかった、気を付けて」
アッシュは何も聞いてこない。
他の冒険者同様に気になってるはずなのに。
「何も聞かないんだね」
私はアッシュに問いかける。
「聞いてほしいの?」
「いや、別にそういう訳じゃないんだけど……」
聞かれても結局ちゃんとした説明は出来ない。
「なら、聞かないよ。冒険者には訳アリの人も多いからね」
「そっか」
「でも話したくなったらいつでも言って。僕が出来ることなら相談に乗るよ」
「ありがと」
まだ出会って間もないけどこれだけはわかる。
アッシュはとても良い人だ。
さわやかイケメン好青年だし!
世が世ならファンクラブが出来ててもおかしくない。
「じゃあ、僕はこっちだから」
「うん、またね」
私はアッシュと別れて街の外へと向かった。