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異世界魔道具フェスタ  作者: 浪紗賀たゆた
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7.緊急依頼

 ドタバタと慌ただしい音が聞こえて目を覚ます。


 「んー、なんだろ」


 耳を澄ますと下から話し声が微かに聞こえてくる。

 ひとまず寝る時に脱いでいた衣服を着て、眠い目をこすりながら一階へと降りる。

 食堂には複数の人がいて、みんな腰や背中に武器を身に着けている。

 どうやら冒険者のようだ。

 その中にアッシュの姿を見つける。


「おはよう。何かあったの?」

「あ、ルーシアおはよう。ウルフの大群が街のすぐ近くに迫ってきているみたいで、ギルドに緊急依頼が出されたんだ」

「ウルフの大群?」

「昨日僕たちがウルフと戦ったあたりまで来てるみたいだ」


 それってすごい近いじゃん。


「冒険者のみなさんはギルドに一度集まってパーティー編成をして、すぐにでもウルフ討伐に参加してください!」


 ギルド職員らしき女性は簡潔に用件を伝えると、店を出て走り去ってしまった。

 話を聞いた冒険者たちは次々と宿屋から出ていく。


「さ、僕たちも行こう!」

「わっ!」


 急に手を引かれたので、足がもつれて躓きそうになるが何とか体勢を立て直す。

 え、私も行くの……?

 たしかに昨日参加するとは言ったけど、最初に受ける依頼がこんな慌ただしい感じなのは嫌なんだけど。

 そんな私の心境を知らないアッシュに半ば引き摺られるようにギルドに連れて行かれる。

 ギルドに到着すると中は冒険者でごった返していた。

 職員が受付で依頼書のようなものや地図を広げて、冒険者たちに状況説明を行っている。

 私たちも自然と受付に足を運ぶ。


「現在、森の入り口には百匹以上のウルフが確認されています」


 大群とは聞いてたけどそんなに?!

 昨日戦った時はわけもわからず倒せちゃったけど、あれが百匹以上……。


「準備の出来たパーティーから討伐に向かってください!」


 冒険者たちは「よっし、稼ぎ時だぜ!」だの「何匹倒せるか勝負だな」など意気揚々と出発していく。

 ギルド職員が慌てているのに対し、冒険者たちからは緊張感の欠片も感じられなかった。

 私でも倒せるぐらいだし、ウルフはそんなに強い魔物じゃないんだと思う。

 正直、自分にどんな力があるかわからない状態で戦いに行きたくないんだけど。


「やっぱり、これは私たちも行く流れなんだよね?」


 少し行きたくないオーラを出しつつ念のため聞いてみる。


「説明を受けているとは思うけど、ギルドに登録している以上やむを得ない場合を除いて緊急依頼の参加は必須だよ」

「ですよねー」

「ルーシアさえよければ僕とパーティーを組まない?」


 ギルド職員もパーティーを組むことを推奨してたし、基本的にこの世界では複数人で依頼をこなすのが当たり前なのかもしれない。

 慣れるまでは一人じゃ怖いし、願ったり叶ったりの提案だった。


「よろしく!」


 昨日の約束がすぐに果たされることになり、初パーティーでの初依頼が始まった。


「昨日はあまり見ていなかったんだけど、ルーシアはどんな戦い方を?」


 森の入り口に移動していると戦い方についての質問をされる。

 私の戦い方……? 


「お互いの連携のために知っておいた方が良いと思って。ちなみに僕は基本的に魔法は使えないから剣で戦ってる」


 そう言いながら腰に身に着けている剣を少し鞘から出して見せてくれた。

 特別な装飾のない少し大きめの鉄の剣だった。


「それでルーシアは?」


 もちろん武器なんか持ってないし魔法も使えない。

 出来ることといえば、腕に噛みつかせて木や地面に敵を叩きつけるのみ。


「えーっと……素手……かな?」


 武器もなく魔法も使えないんだから、ここは正直に素手と答えるしかない。

 

「素手ってことは格闘家なのか。お互い前衛ということはフォローできる距離は保ちつつ、少し離れて戦った方が良さそうだね」


 格闘家か。その発想はなかった。

 言われてみれば素手で戦うってことはそういうことになるよね。

 本当は大魔法をぶっぱなしたり、空を飛んだりしたいんだけど。

 

 そうこうしている内に目的地である森の入り口に到着する。

 森にはすでにたくさんの冒険者たちがいた。

 パーティー毎にお互いの邪魔にならない程度に距離を保って戦っている。

 なんかオンラインゲームの人気狩場みたいだ。

 冒険者とウルフが所狭しといるせいで、後から来た私たちは少し遠目から傍観する形になっている。

 これ私たち参加しなくても大丈夫じゃない?


 そういえば依頼の達成条件って何なんだろう?

 慌ただしかったので、そこら辺の詳しい話を聞くのを忘れてしまっていた。

 一匹も倒さなかった場合、報酬はどうなるんだろう?


「これ、依頼の達成条件って何なの?」

「基本的にこういう緊急依頼に明確な達成条件はないね。今回の場合だとこの辺一帯のウルフを倒したら終わりだよ」


 とりあえず脅威がなくなればいいんだね。


「報酬については、モンスター退治であればモンスターを倒した数によって決まる。その後、詳しい状況を調査してさらに追加報酬が出る場合もある」


 つまり、今回の場合は依頼達成の報酬はなくて、個人成績で報酬がもらえるってことか。

 昨日ロイツさんにウルフを引き渡したら宿代二日分がタダになった。

 皮や牙なんかは受け取ったし、単純に肉だけで二日分?

 ウルフの素材を合わせるとウルフ一匹で最低でも三日ぐらいの宿代になるのかな?

 戦うことに不安はあるけど、これはチャンス!

 ウルフを五匹前後は倒して一週間ぐらいの宿代と生活用品を買うお金くらいは稼いでおきたい。 


「ルーシア来るよ!」


 今後の生活のことを考えていると、冒険者たちの間をうまくかわしたウルフが二匹突っ込んできた。

 私とアッシュは戦闘態勢に入る。

 周りをちらっと見ると剣や斧、槍などで戦っている冒険者が目に入る。

 せめて私も剣ぐらいあればなー。

 とりあえず昔テレビで見たボクサーの見様見真似でファイティングポーズをとる。

 素人がこのポーズをして意味があるのかはわからないが、素手での構えなんてこれぐらいしか知らない。


「左は僕がやるから、右のやつをお願い!」


 アッシュは左側のウルフに向かっていく。

 私は右側のウルフを待ち構える。

 ウルフは少し距離を保った状態で私を睨んでいる。

 すでに二回戦っているのと噛まれても痛くないおかげか、そこまで恐怖心はない。

 さて、どうやって倒そう。

 出来る事といったら昨日と同じように噛みつかせて振り払うか、どこかに叩きつけるかだけど。

 昨日は咄嗟だったから何も考えてなかったけど私の戦い方って変だよね?

 あんまり目立ちたくないし、ここは普通に戦ってみますか!


 痺れを切らしたのかウルフが突進してくる。

 眼前に迫ったところで、右手でパンチを繰り出す。

 ウルフが横に飛び、攻撃は難なく避けられてしまった。

 その後、何度かパンチを試みたが全て避けられてしまう。

 む、難しい……戦いに慣れてないのは勿論だけど、素手で動物を殴るというのにも抵抗があり少し躊躇ちゅうちょしてしまっている。

 このままじゃ埒が明かないので作戦変更だ。

 突進してくるウルフに合わせて、左腕を噛みやすいように体の前に構える。

 ウルフはまんまと私の左腕に飛びついて噛みついてきた。


「今だ!」


 左腕を少し上げ、右手でウルフの腹に思いっきりパンチを決める!

 まともに攻撃を食らったウルフは、ものすごい勢いで吹っ飛ぶ。

 奥で冒険者と戦っているウルフにぶつかり、そのまま二匹まとめて後方の木にぶつかり動かなくなってしまう。

 え? なんであんなに吹っ飛ぶの?!

 吹っ飛んだウルフと戦っていた冒険者たちが振り向いて、唖然とした顔でこちらを見ていたので目を逸らしてしまった。


「すごいね」


 視界から逃れるようにこの場を離れようとしたら、アッシュが横に来ていた。

 どうやらウルフを倒して戻ってきたようだ。

 完全に見られていた。


「身体強化の魔法?」


 身体強化……その手があった!

 素手で戦うとは言ったけど、魔法が使えないとは言ってないからね!

 

「そうそう! ちょっと気合い入れすぎちゃった」


 異世界モノの定番として不思議な力が付与されてるって事かな。

 防御力だけじゃなくて攻撃力も強化されていて……そういえば、昨日ウルフを木に激突させた時にものすごい勢いで突っ込んじゃったけど、あれはもしかして素早さも強化されてる?


「あれだけの身体強化が使えるのなら、余程の数に囲まれない限り大丈夫そうだね」

「うん、たぶん二匹か三匹ぐらいなら大丈夫だと思う」


 実際は噛まれても大丈夫だから何匹いようと関係ないような気がするけど、この力が無制限に使えるのかどうかはわからないから油断しない方が良さそうだ。


「じゃあ、どんどん狩ろうか」

「りょーかい!」

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