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 恐る恐る侵入者の姿を確認したラグナは瞠目する。

 その人物はつい先日に褥を共にした女だった。しかし、ラグナが驚いたのは人物自体ではなく、その装いだった。ラグナが生死問われている最中、場違いにも女は結婚式から抜け出してきたような花嫁衣装だ。

 女が纏うマーメイドラインのウェディングドレスは女の胸から腰の下までぴったりとフィットしており、メリハリのある女の体のラインがくっきりと出ている。混じりけなしの純白で統一されたドレスは胸元と裾にレースがあしらわれ、ウェディングドレスとしては落ち着いた印象のドレスに一花咲かせている。

 

 普段なら女の美しいドレス姿に見とれて呆けているところだったが、今の状況がそれを許さない。ラグナが女の姿を目に入れたと同時に女も机の盾から顔を出したラグナを見つけることになる。

 ただでさえ不機嫌だと分かる女の顔が鬼の形相に変わる。


「きぃさぁまあぁぁ!!!」


 女は右手に持った大剣を床に突き刺す。そして、女は歩きにそうな格好をしているにも関わらず、ずんずんとラグナに迫ってくる。

 

「まっ、待ってくれ!!」


 相手の正体が分かったラグナは立ち上がり、交渉しようと相手の制止を試みる。ラグナにはこれしか自分の生き残る道が思い付かなかった。

 しかし、時すでに遅し。女はラグナの目の前に立つと拳を引き、ラグナの腹に向けて打ち出した。


「グホッ!!」


 ラグナの腹に拳が突き刺さり、それはそのまま背中まで貫通した。どこかの内蔵が破壊され、血がラグナの喉を遡り、口から溢れ出す。


「はっ!しまった!」


 女は血に染まった拳を引き抜く。拳で埋まっていたラグナの腹に風穴ができ、向こう側の景色が見えるようになる。支えを失ったラグナの体が崩れ落て床に倒れ伏し、出来た風穴から溢れる血があっという間に血溜まりを床に作る。

 女の純白だったドレスは返り血で鮮やかな紅に染まる。


「死ぬな!死ぬなラグナ!」


 女が叫ぶ。

 しかし、明らかに致命傷だ。今さらどうしようもない。

 哀れ、ラグナは死んでしまった。





















「死ぬなって、あんたがやったんだろうが······」


 などということがないのはラグナだけが知っていた。先ほどまで、哀れな骸になりかかっていたのが嘘のように喋り初める。

 女は現実味のない光景に言葉が出ず、開いた口を塞ぐのを忘れていた。


「オゲェェェ」


 女が呆けているうちにラグナは起き上がって、体内に溜まった血を吐き出し始める。そうしているラグナの腹見ると、あったはずの風穴がいつの間にか埋まっていた。

 女は幻でも見せられていたのかとも感じたが、幻だったと疑わせる物は埋まっている風穴だけであちこちに飛び散った血も女の拳大に穴の開いたラグナの服もそのままだった。 


「何故だ······。なぜ生きている!!」


 ようやく言葉を思い出した女は理解不能の状況の答えをラグナに求める。


「おいおい、死ぬなって言っておいて不満なのか?」


 しかし、ラグナはとぼけて返す。


「はぐらかすな!あの傷で人間が生きていられるはずがない!!」


「僕は死なないのが得意なだけだよ」


 ラグナに真面目に答えるつもりはなかった。


「それより何でこんな真似したんだ?」


 今度はラグナが女に問う。

 それを聞いた女は思い出したかのように怒りを再燃させる。


「貴様が私との約束を違えたからだろう!!!」


「約束?」


 約束とはきっと女が一昨日に言った例の件とやらの事だろう。ラグナにはそこまでは分かったが、その内容はラグナの記憶にはない。ゆえに、ラグナは女の使った約束という言葉をおうむ返しする。

 しかし、そんなラグナの言葉は女の神経を逆撫でした。

 女の両手がラグナの首に伸び、締め上げ、体を宙に浮かせる。


「とぼける気か!貴様!!」


 ラグナは苦しみもがき足をばたつかせるも、宙ぶらりんな状態ではなすすべもない。首を締め上げる女の手を引き剥がそうにも力では敵いそうにない。


(あのまま、死んだふりしとけば良かった······)


 ラグナは先にたたなかった後悔をしながら悶える。

 

「覚えてない、覚えてないんだ」


 ラグナは締まった喉から掠れたような声を出す。


「覚えてない?」


 ラグナの言葉に反応して絞まる首がわずかに緩み、少しだけ呼吸ができるようになる。


「あの時の僕は相当酔っていただろ?」


 続いたラグナの言葉を聞いた女は完全に首から手を離し、ラグナは地に足を着ける。首にはくっきりと絞められた跡があり、ラグナはそこに残った感覚を拭うように首をさする。

 その作業に意識を奪われていると、女はいつの間にか膝をついていた。


「そんな······」


 先ほどまでの怒りの火はすっかり消え、女の顔には冷えきった絶望が浮かんでいた。別次元を見てるような目をして動かない。

 

(なんだって言うんだ······)


 ラグナは何が何だか分からなかった。行きなり押し掛けられ、屋敷を破壊され、殺されかけ、また殺されかけた。どう考えても自分の方が被害者のはずだ。しかし、女はラグナが一夜の事を覚えてないというだけでラグナ以上に悲嘆にくれている。すっかり石になってしまった女との間に生まれる沈黙が痛い。

 女のあんまりな姿にラグナの方が罪悪感を覚え始める。


「おっ、おい!大丈夫か?」


 沈黙に耐えきれず、ラグナは女に話しかける。しかし、反応はなかった。


「忘れたのは悪かったって。だから元気出せ。俺に出来ることなら何でもするから」


 とりあえず謝っておく。それも立派な処世術だ。自分がどんな事を忘れてしまい、どんな罪があるのか分からない。だが、とりあえず謝っておけば事態は沈静化する。生きていれば誰しもが学ぶ処世術をラグナも実践する。

 

「今、何でもすると言ったか?」


 しかし、ここでは裏目に出る。

 ラグナの腕をガシリと掴み、生気を取り戻した瞳でラグナを凝視する。


「出来ることならっ!!出来ることならね!!!」


 ラグナは女の手から逃れようと千切れんばかりに腕を引く。しかし、女はラグナの足を払って倒す。そして、うつ伏せになったラグナの首根っこを掴み、書庫の外へ向けてズルズルと引きずり始めた。


「大丈夫。出来ることだ」


 ラグナが逃れようと必死に暴れるが、余裕綽々に女は言った。


「ならまず離せ!!そして何をするかを言え!!」


「だめだ」


「何故だ!!」


「お前が逃げるからだ」


「僕が逃げ出すようなことを出来ることとは言わないっ!!!」


「人間が生きている以上出来ることだ」


「なにやらされるの僕うぅぅぅ!!」


 途中で床に刺さった大剣を回収し、右手にに大剣、左手にラグナを引きずりながら歩き出す。

 もうラグナはいいようにされるだけだった。

 

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