3 座席はふっかふかでした
入学式は、ゲームと同じく大広間で行うらしい。まさかの現地集合らしく、侍女さんと共に入学式へと向かった。
いくらゲームを何周もしてるとは言え、道を把握している訳ではない。むしろ、行き先ボタン1つでひとっ飛び出来たので、大まかな位置関係しか分からないのだ。
侍女さんが居なければ、今頃私は迷子になっていたことだろう。危ない危ない。
無事に入学式が行われる大広間に辿り着いた。
少し騒がしい大広間の中では、既に殆どの生徒が着席しているようだ。ヒロインや、攻略対象らしき後ろ姿もチラッと見えた気がする。いや、いないとおかしいんだけれどね。
座席表で私の席を確認して……い、1番前の席なのね。居眠りしないよう気を引き締めておかなければ。
2つ隣に、同じ公爵家で攻略対象のアデル・カムベルトの席もあった。恐らく、身分によって座る位置が違うんじゃないだろうか。
オープニングムービーでも、ヒロインは1番後ろの席で全体を見渡せる場所に居たし、実際に入り口近くの席のようだ。王族であるルドア・フォン・ラフテンシアは、特別席のような感じで、1番前の私達とも少し離れた場所に座っている。
流石にキョロキョロしながら歩くのは憚られ、真っ直ぐ私の席に向かい、アデルとは目を合わせないようにしながら座る。
間もなくして、入学式は始まった。
壇上に上がった学園長は、見た目も、喋る内容もオープニングムービーで見慣れたものだった。
学園長のお話が終わると、生徒代表として壇上にあがったルドア王子が挨拶をする。この流れも、ゲームと同じ。
ヒロインが初めてルドア王子を目視する場面である。他の攻略対象にはない待遇だ。もしかしたら運営も、私と同じヒロイン×ルドア王子を最推しなんだと思っている。今となっては確かめようがないんだけれどね。
順調に進んでいく入学式は、端折られていたであろう部分を除くと、ゲームと完全に一致する。これには嫌でも実感させられた。
やっぱり私は〈ドキラブ♡魔法学園〉の世界にいるのだろうということを……。
最後に、授業ごとの先生の紹介も恙なく行われ、入学式は幕を閉じた。
ゲームでは入学式が終わると同時にムービーも終了し、ヒロインの名前を入力する画面になる。その後、次の日からゲームが始まった筈だけれど。
どうやら現実では、私達の教室に行き、生徒同士や担任と改めて軽い顔合わせを行うらしい。
この魔法学園は、1学年1クラス。
つまり、ヒロインのミズキは勿論のこと。
攻略対象のルドア・フォン・ラフテンシア、アデル・カムベルト、テオ・オキシスの他、悪役令嬢仲間とでも呼べばいいのかミリア・フォンディと同じクラスになる。勿論、ジーニア・コメット先生が担任だ。
ヒロインと攻略対象達に接点を持たせるためだろうけど、集合しすぎだと思う。
座席は特に決まっておらず、大学にあるような長机方式だから、1番後ろの席を陣取って、なるべく近付かないようにしようかな。
そんなこんなで、顔合わせも無事終わり、寮の自室に戻ることが出来た。
侍女さんに、制服から部屋着への着せ替えを手伝ってもらい、晩ご飯を食べ、お風呂まで手伝われ、ようやくベッドにダイブすると、猛烈な眠気が襲ってくる。でもここで眠るわけにはいかないのだ。
入学式で、ここがゲームの世界と同じだと確信した。だから、私にとってのバッドエンド回避方法を考えたい。
考えたいのだけれど……駄目だ、眠すぎる。今日中のバッドエンド対策は諦めよう。
こうして、私のエリエル・マーリアノルトとしての初日は幕を閉じたのであった。