24 良い香りのするお手紙でした
「おはよう、エリエル。休日に突然すまない」
「こんにちは、マーリアノルト様」
「ご機嫌よう、ルドア様、フレンディット様」
三者三様の挨拶を交わした。現在太陽は真上にある時間です。
私にとっては無駄に煌びやかな装飾を施された椅子に座る。シーアが淹れ立ての紅茶を目の前の机に置いてくれた。
「風邪を引いたと聞いたが、体調はどうかな」
「すっかり治りましたわ。調子も、何の問題もございません」
「それは良かった」
風邪だったと知っているなら今日は遠慮して欲しかった。そんなことを言える筈もないので微笑んでおく。
白地に金の薔薇が散りばめられた模様のティーカップを手に取り、一口紅茶を飲み込む。うん、おいしい。
ルドア王子も、目の前にあるカップに手に取り中身を飲んだ。見惚れる程に優雅な仕草に感心する。流石王子様である。
「ところで、ルドア様とフレンディット様はどのようなご用向きで、こちらにいらっしゃったのでしょうか」
「私はただの側近ですのでお気になさらず」
椅子に座らず、ルドア王子の後ろで立ったままのカイルは、にこりと笑いながらルドア王子の方へと目線を動かした。側近とはそういうものなのか。
「実は母上から手紙が届いたんだ。エリエル、君宛のね」
「手紙ですか」
手渡された封筒は真っ白で、縁に金や銀の、何かの花をモチーフにした模様が入ったおしゃれな物だ。
表には、とても綺麗な字でエリエル宛の名前が記されている。裏には、赤い溶けた蝋に王家の紋章を押しつけたような封をされていた。右下には王妃様の名前が入っている。
この名前を、ついうっかり零した紅茶等で汚してしまったら処刑されるイメージがあるので、なるべく触らないようにして封筒を開いた。
手紙を持つ手が震えないように気を付けながら、上から下へ読んでいく。
「これは……ミズキさんを手助けしなさいってことかしら」
内容を纏めるなら、定型的な挨拶に始まり、夜会のダンスが素晴らしかったこと、ミズキとゆっくり話が出来たことに対する感謝の他に、ミズキが学園での生活に不安を抱いているようだから、ルドア王子と協力してミズキが馴染めるように手助けして欲しい、気にかけておくだけでも良いから、といったものだった。
王妃様の言葉なので、実質命令に当たる気がするのは気のせいではないだろう。
何となく、この手紙で伝えたい本音は聖属性持ちのミズキを気にかけるように見せつつ、他国に出て行かないよう見張っておいて欲しいという内容な気がする。いや、流石に深読みしすぎだろうか。
特に人に見られて困る内容でも無いので、ルドア王子にも直接読んで貰った。私が口で説明するより確実に情報を伝えられる筈だ。
「成る程。……聖属性の持ち主と繋がりを持っておきたいということか」
ぼそっと呟かれた言葉は、静かな室内でしっかりと私の耳に届いてしまった。やっぱりそうなのだろうか。
そういえばゲームでは、この夜会以降エリエルがヒロインを虐めることに本腰を入れていた気がする。小言ばかりだったのが、わざとぶつかって騒いだり、水溜まりの前でヒロインの背中を押して転けさせたり、階段からの突き落としたりと、どの攻略対象のルートに入ってもエリエルはこれらの虐めをミズキに行うのだ。
もしかすると、この手紙がきっかけだったのかもしれない。
「エリエル、君はどうしたい」
エリエルは、何と答えたのだろう。王妃様の頼みだからと苦い気持ちをこの場では出すこと無く了承したのだろうか。それとも、協力はしないと断ったのだろうか。残念ながら、私には想像することしか出来ないので答えは分からない。
でも、今ここで問われているのはエリエルの体に入った私である。答えなんて、1つに決まっているじゃないか。
「勿論、喜んで協力させていただきますわ」
ルドア王子×ヒロインを、私の〈ドキラブ♡魔法学園〉における最推しcpを実現させる為に有効活用させていただこう。夜会の夜って何となくおかしい気がするけれど、ルドア王子もミズキもほんのり顔が赤くなってた筈だから、脈はある筈なのだ。明日教室で花の色を確認しなければ。
そして、可能であればハッピーエンドルートを目指したい。2人の協力をしたという名目で、国外追放せずに済むように努力もしよう。
「ありがとう、助かるよ」
完璧な王子様スマイルで笑ったルドア王子に、私も目一杯の笑顔を返した。
何となく視線を感じてルドア王子の背後に目を向ける。
不気味な程完璧な笑みを口元だけで作り、何かを探るかのような目をしたカイルが立っていた。
22話の内容に間違いを見付けた為、修正させていただきました。申し訳ございません。
読み直さなかったからといって、特にこれからのお話に関わるようなものではありませんのでご安心ください。




