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プロローグ

 若葉のような、明るく澄んだライムグリーンの瞳は猫のように少しつり上がり、窓から差し込む太陽に照らされた、まるできらめく海のように輝くアクアマリンの髪は、肩口で小さな渦潮のように縦に巻かれている。

 

 目の前の姿見に写る、恐らく私である筈の人物はまるで、最近ドはまりしている乙女ゲーム〈ドキラブ♡恋する魔法学園〉に出てくる悪役令嬢エリエル・マーリアノルトのような……。


 叫び出しそうなのを必死に堪え、目の前の姿見が実は絵ではないかと近付けば、エリエル・マーリアノルトも姿見の中で近付いてくる。私が右手を挙げたり、左手を握って開いて、くるっとその場で1回転をすれば、鏡の中のエリエル・マーリアノルトも左右逆にはなるのだけれど、同じように動いた。

 先程は断言できなかったけれど、間違いない。今、私はエリエル・マーリアノルトになっている。

 少なくとも体は、と前に付くけれど。


 確信めいたものを持つと妙に落ち着いてくるもので、さっきまで私が端から見たら奇行に及ぶご令嬢だと気が付いた。急に恥ずかしくなって、周りを見渡すけれども、部屋の中に私以外の人は居ない。もし誰かに見られていたら、エリエル・マーリアノルトになって初めての黒歴史になるところだった。ゲーム内ではこんなの比べられないほどの黒歴史を、主人公を虐めるために増やしていくのだけれど、それは私自身じゃないから置いておく。

 まあ、窓の外を見れば海から朝日が半分ちょっとくらい顔を出しているところなので、こんな早朝に悪役とは言え、ご令嬢の部屋に入ってくるような人は常識的に考えて居ないだろう。

 私も何かの違和感に気付いたのか、朝7時起床が基本の日本に居た頃では考えられないような早すぎる時間に起きて、部屋と自分の姿を見て少し混乱していたのだから色々と仕方がない。


 冷静になってきたので、折角だから私についての情報を再確認しよう。

 私はしがないOLの28歳。乙女ゲームをしているのに? とよく言われるが、彼氏いないどころか、好きな人が出来たこと無い&私自身の恋愛に一抹の興味すら抱けなかった=年齢の私は、所謂アロマンティック アセクシャルなんだと思う。気になるならネットや国語辞典で調べて欲しい。国語辞典に載ってるかは知らないけれど、ネットで性的マイノリティとか、恋愛嗜好とか、LGBTsとかで調べれば出てくるんじゃ無いかな。出て来なかったとしても責任取れないけどね。


 自分自身の恋愛は興味ないけど、他人の恋愛を完全部外者でニヤニヤ見たり聞いたりするのは好き。勿論2次元なんて主食レベルである。私が乙女ゲームをプレイするのは、そういう観点からで、ヒロイン×攻略対象という王道も、悪役令嬢×攻略対象も、名前も出て来ないモブの女の子×攻略対象やヒロイン×モブの男の子とかも大好物だ。男同士、女同士は否定しないしお勧めされたら読んだりするけど、私が愛してやまないのは所謂NLで、暴力ものはあまり好きではないけれど、地雷と言うほどでもないし、結構雑食な方だと思う。二次創作がネットで簡単に見られたり、買うことが出来る時代に生まれた奇跡は一生忘れるつもりはない。今は別の場所にいるのかもしれないけれど、ね。


 ちょっと話がそれたけれど、日本生まれで日本育ち、ついでに言うと国内旅行には行くけれど、海外に1回も言ったことのない普通の日本人。だったと言うのが正しいかもしれないけど、それが私。名前は何故か思い出せない。嘘だろうと思うかもしれないけれど、真実だ。割とそのことを受け入れている自分が怖い。


 ともかく、ラノベではよく、日本人が乙女ゲームの世界やファンタジー世界に召喚されたり転生するって話はあるけど、私には魔法陣を見たとか不思議な声を聞いた記憶もないし、特に死んだとかそんな記憶もない。普通に夜眠って、実はまだ夢の中ということもありえるけれど、それにしては感覚がリアルすぎる。

 本当に何故、〈ドキラブ♡恋する魔法学園〉の悪役令嬢エリエル・マーリアノルトになっているのか分からないし、何より情報が少なすぎて本当にあの乙女ゲームの世界なのかすら怪しい。


 それでも私は、これが夢なら覚めるまで、もし現実ならば死ぬまでこの世界で生きていかなければならないのだろう。

 それなら覚悟を決めるまで。







 そう、例えバッドエンドしかない悪役令嬢エリエル・マーリアノルトの体になっているのだとしても……。

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