笑顔のカタチ。
メリケンコを薄うのばしたんに、卵やら出汁やら入れてな、よぉう掻き混ぜるんや。はんなりクリーム色になった生地をやな、チンチンにぬくめた鉄板の穴ぼこにな、ドバァッと流し込むんや。勢いっちゅうんもケッコウ大事やねんで。
じゅうじゅうええ音がしてる。ほんで次は、きらっと光るステンレスの千枚通しやな、あれを使うねん。脂の漂うメリケンコの生地に、銀色の沼矛を指し下して畫きたまひ、鹽こをろこをろに畫き鳴して、引き上げたまひし時に、その矛の末より滴る鹽の積りて成れる島は、淤能碁呂島なり。って古事記やないかい! まあそんな国生みの地・淡路島の明石海峡でとれたタコは神話級の旨さやけどな。
そのタコは絶対に外されへんねん。これがなかったら、ワシはワシでなくなってしまうさかい。マストアイテムっちゅうやつや。みなさん大きいのんがデンと一つ入ってるより、小さいのんが二つ三つ入ってんのがお好きなようやな。タコて、火が通ったら意外と固いもんなぁ。
屋台のおっちゃんはタコに続いて小エビやらネギやら、なんやらかんやら入れよるけど、忘れたらアカンのは天かすやで。これがないと味が腑抜けになんねん。コシがのうなんねん。天かす入れてこその、ワシのこの腹のとろとろともっちり感、もうたまらんやろ。
さてさて、あっつい鉄板の窪みで千枚通しに突かれグルグル回されて、身体もよお温まってきたわ。なんや目も回って来よったけどな。
おっ、やっと出番やな。待ってましたで。
よっこらせっとフネに乗り込み、紅や緑でパッパとお化粧して、濃い茶色の外套に全身を包んでやな。ほんでな、爪楊枝は二本や。これも大事やねんで。ケチって一本だけにしたら、突き刺した時にクルクルと回ってまうねん。回るんはもう鉄板の上だけにしといてほしいわ。せやから爪楊枝は二本、これは覚えといてな。
おっ、なんや。あんさんら喧嘩してんのかいな。
さっきまで、いちゃいちゃくっついとったのに、なんでや?
彼氏があっちのべっぴんさんに見惚れてたんやて。そらあかんわ。
でもな。
青のり、ソースに紅しょうが。
ぎょうさん躍っとる、かつぉぶしもアツアツの小道具や。
ほら見てみ、あの二人。
彼氏のほっぺにソースがペタリ。
お嬢は下向いてこらえとったが、声を上げて笑いだしたんや。
兄ちゃんはムッとしよったけど、彼女の歯には青のりがこれまたペタリや。
こっちも思わず、腹抱えて笑いだしよった。
タコの吸盤パワーをなめとったらあかんで。
なんでもピッタリくっつけるんや。
ほら見てみ、あの二人。
さっきまでが嘘みたいに、手ぇつないでるやろ。
笑顔っちゅうんは、やっぱりええね。
あれま、密着しすぎやて。
あ~んって、人さまの前で何してるねん。
こっちの方が恥ずかしなるわ。
そこまでトロトロのアツアツにならんでもええっちゅうねん。
ほんで、やっぱり、そのなんちゅーか、タコゆうたらあれやな。
墨をチューっとするやんか、そう、チューっとな。
ほら見てみ、あの二人。
ああ、あかんて。
恥ずかしゅうてこっちが茹でダコみたいに赤うなってまうわ。
あんまりにアツすぎてヤケてくるやないか。
まあ、よぅ焼けてるんやけどな。
そう、ワシはタコ焼きや。
アツくて、マルくて、おいしいんやで。
ほぅら、ほっぺが丸うならはった。
みんなええ顔してくれはる。ワシはほんまに幸せもんやな。
※青空文庫「古事記」〔一、伊耶那岐の命と伊耶那美の命〕〔島々の生成〕
https://www.aozora.gr.jp/cards/001518/files/51731_50813.html(2018年10月28日午前0時26分閲覧)より引用いたしました。なお、ルビを一部追加いたしました。
ヤオヨロズ企画への参加作です。カミサマのお話なので、神話(古事記)から引用してみました。