踊る会議と歴史は夜作られる
ウエンツ大統領が話に乗ってくれたので、僕は単身、カノンの首都、その名もカノンヘ早速テレポートで向かった。
本来は豪華に饗すのが大好きなウエンツ大統領だが、二つの軍隊が向き合っている最中だ。
もし、ちょっとした間違いでもあったら、途端に血みどろの戦いに発展する可能性もあった。
なのでカメラをセッティングし、すぐに僕とウエンツ大統領は会談を始めた。
「えー、叡明なウエンツ大統領の水面下での温かいお言葉により、私、ウラガスミとウエンツ大統領は首都カノンで、今、会談を始めることになりました。
この度は、いくつかの不慮の出来事が重なり、本来、不可侵条約を結んでいたマイラはカノンと、本来はありえない交戦を始める一歩手前まで至ることとなりましたが、
偉大なウエンツ大統領は、一方で和平の道を探っておられました。
私、ウラガスミはご覧の通りまだ十五であり、今回は我々の不手際からウエンツ大統領のお怒りを買うこととなり、このような事態になりましたが、マイラは、決してカノンの敵ではありません。
マイラはカノンをお手本として成立した国家なのですから。
本来、戦いを中止するということは、何らかの賠償や勝ち負けを歴史に刻むことなのですが、今回、ウエンツ大統領は第三の道を示されました。
それでは、ウエンツ大統領。
国民の皆さんにご説明をお願いします」
うむ、と重々しく頷いたウエンツ大統領は、まず、カメラに向かって、厳しい顔を、笑顔に戻した。
「諸君は連合国家というものをご存知だろうか。
私はウラガスミ君にプレゼントされたスママでこれを知り、驚きと感動に体を震わせた。
これは同じ法律を持ち、同じ通貨を使用し、同じものを敵とする、複数の国家、という新しい概念だ。
私は水面下でウラガスミ君にこのことを、尋ね、提案をすることとなった。
今回の戦争は互いの国の法律解釈の違いから生まれた諍いだ。
もし、マイラとカノンが同じ法律を持ったなら、そもそも誰も血を流す必要など無い話なのだ。
無論、今すぐ法を変える、という訳には互いにいかないが、これから対話を続け、近い将来、マイラとカノンは連合国家となることを目指す。
さしあたっては互いに軍は引き、国境はなくなり、通貨もどちらの通貨でもものを買える、その事は明日からでも始められる、と我々は合意したのだ」
おお、とカメラマンを始めスタッフたちが歓喜の声を上げた。
明日から、というのは全くのウエンツのアドリブであり、僕は嫌な汗をかいたが、しかし、どのみちどこかでスタートを切らなければ、話は始まらない。
明日から、というのなら、少々準備不足の感はあるが、どのみちこの世界で初めての連合国家樹立であれば、いつ始めたとて混乱は絶対あるだろう。
明日、というのなら、それも一つの解ではあった。
何ヶ月後、などというより、むしろ突入してから混乱の洗い出しをしたほうが解決も早い気もしないでもない。
「これは互いに大きな利点のある話なのです…」
僕は補足を話した。
「マイラは、土地の緑化やテレポートチューブなどをカノンに提供できます。
また、カノンは歴史に培われた美意識や芸術的な陶器、工芸品の数々を、今までのカノンに倍する顧客に提供できます。
互いに豊かになり、また、軍事的にも強くなります。
それは、住民にとっては、安全で安定した生活の保証、と言い換えることも出来るのです。
医療もカノンの優れた優れた医療機械と、マイラの優れた医療魔術が融合した成果は、将来の医術を激変させるでしょう。
また、カノンの素晴らしい観光資源は、今まで過小評価されていましたが、歴史をかんがみたとき、決して少なくない収益をカノンにもたらすはずです。
カノンのホテルは優雅ですが、マイラには、もっとくだけた旅館があります。
それらの多様性がカノンの歴史に加われば、カノンの資産価値は何倍にも増大するのです」
うむ、とウエンツ大統領は頷き。
「また、我々に敵対国がなくなれば、カノンとマイラの広大な地域は北と南に海を持った、防御基地の必要もない安全な大地となる。
すると、このウラガスミ魔王の目指す世界の破壊に向かう戦力は、倍増どころか十倍にも二十倍にもなるのである」
頼むまでもなく、ウエンツ大統領は、魔王戦線への参加を語っていた。
無論、世界制覇した暁には、それはウエンツの支配する世界となる、との目論見だった。
実のところ、僕と同い年の二人の王族、リット王子とアビ皇子も五年もすれば大人の戦士だ。
その時、ウエンツ大統領が上なのか、リット王子やアビ皇子の方が優れているのかは、実のところ、今の僕には、いやマリンにだって解らないことだ。
ただし、ウエンツ大統領がやる気になってくれたことは、魔王たる僕にとってはとても大きなことだった。
これはカノンを滅ぼすよりも、むしろ魔王軍たるマイラにとっては、ずっと大きな成果だった。
一国の無傷の軍隊が、そのまま魔王軍に加わったのだ。
単純な兵力で言えば、この会談、それだけで兵力が倍に膨らんだ、と言えるだろう。
サトノホマレの魔法技術が解析できれば、もしかすると倍では済まない利益と言えた。
だからこそ、僕はウエンツの下につき、副官のように振る舞っていたのだ。
「さて、ここまでの放送で両軍は戦争の終結を理解してくれたものと考えるが…。
両軍、運んだ食料は十日や二十日ではないはずだ。
皆のもの、これから向き合った兵士は明日の友である。
今日こそは互いの糧を惜しまず分け合い、宴を始める、まずはそこから始めようではないか!」
あー、ウエンツ大統領は、くだけた良い人物ではあったが…。
とてつもないお祭り男でもあった、と僕は思い知った…。
だがウエンツには、とてつもない好ましい指導者であるとは言える。
何しろ軍事音痴な上に、部下にはダワさんやダンさんのような歴戦の兵士も揃っていた。
軍事に余計な口を挟むことなく、有能な兵士はシッカリ、マイラとして動員ができるのだ。
しめしめ、と顔は生真面目にしたまま悪い事を考えていた僕にウエンツ大統領は、
「さてウラガスミ君!
今宵は永遠に歴史に刻まれる記念日になるだろう。
早速、饗宴の準備を始めるぞ。
君は、前にもこの街に来た、あの美しい婦人や、映画のプレミア公演のときにエスコートしていたチャーミングなお嬢さんも連れて、六時にオリオンの塔に来てくれたまえ!」
まあパーティこそ人生みたいな人なのは判っていた。
判っていたが、たぶんタミア王女を呼ばないわけにもいかないだろうな…。
リリィとタミア王女をうまく扱うには、たぶんキャンパさんにお願いするしか無いだろう、と僕はぼんやり考えていた。




