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記憶喪失のボッチ冒険者  作者: 六青ゆーせー
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フェール君の戦い

砂に変化した六人の勇者たちは、じりじりトカゲに接近していく。


トカゲは、およそ三十センチ程の大きさだ。

とはいえ、その半分は長い尾であり、胴体は頭を含めておよそ十五センチといえた。

到底、勇者隊に対抗できるような戦闘力があるようには思えない。


フェールはビットの映像を直接脳で受けて、勇者隊の背後でミズハと共に戦闘指揮をとる…、戦闘など想定もしていないが…。


砂となった少年勇者隊は、微かにも音を立ててはいなかったが、不意にトカゲは、ピクン、と頭を上げた。


「一同、静止…」


ルルイラを介してフェールは勇者隊に告げた。


なんと言っても内面はサトノホマレである。

砂の微かな動きも感知しかねない…。


トカゲは、爬虫類特有の無駄の無い動きで左右を見たが、砂と化した勇者隊までは気が付かなかったのか、ゆっくり頭をおろした。


「微速前進…」


フェール君の号令で砂は動き出す。

風に吹かれたかのように、上の砂がサラリと前に落ち、次次に表層が落ちるにつれてその部分が数センチの崖になり、ザラリと崖崩れが起こる。


ほんのミクロの動きが、極めて緩慢に繰り返される…。


トカゲは微かに舌を出し、引っ込めた。


その素振りは、先程までの眠っているかのような微動だにしない姿と比べると、やや神経質になっているようにも見える。


流石にフェールも、トカゲの心理までは予測出来なかったが…。


完全に包囲しているのだし、この際、一気に捕獲した方が、不用意に動かれるよりはマシかもしれない…。


(そのまま近づき、十メートル地点になったら、砂の壁を作って一気に捕獲…)


フェールは決断した。


長引かせて包囲を突破されると、トカゲとはいえ面倒なことになる。


穴にでも入られたら苦労だし、まして瓦礫だらけの都市部で小さなトカゲを探すとなったら、かなり大事だった。


砂は静かに前進し、ジリジリとトカゲに迫った。


あと数メートルで捕獲に移る…、そう考えた勇者隊やフェールに、微妙な緊張が生まれたのだろうか。


トカゲが、頭をもたげた。


(止まれ…)


砂粒が、一斉に止まった。


トカゲと、砂のミクロの睨み合いが、始まった。


トカゲは落ち着きなく周囲を見回す。


だが勇者隊は高さ数センチの砂粒であり、およそ見つかる要素は無い。


だがトカゲはせわしなく動き続けていた。

変に動かれると面倒ではある…。


フェールは決断した。


(全員、トカゲを捕獲せよ!)


号令と共に周囲の砂が一斉に壁のように屹立した。

一メートル以上の高さになった壁が、一瞬でトカゲに迫り、ドサリと崩れた。


小さなトカゲにとっては一メートルの砂の雪崩は壊滅的なダメージになるはずだった。


「捕まえた?」


ミズハも思わず叫ぶ。


だが…。


砂が崩れる刹那、トカゲは想像以上に敏捷に動いていた。


トカゲは、なんと後ろ足だけで立ち上がり、風のように疾走したのだ。


落下する砂を巧みにスピードで交わし、砂を弾いて二足走行のトカゲはありえない速度で先の瓦礫の中に逃げようとする。


「ミズハお姉ちゃん!

トカゲの周りに池を作って!」


フェールの叫びにミズハは。


「ほいな、フェール君」


軽やかに答えたミズハは、一瞬で液体となってトカゲの周りに広がった。


水の勇者たるミズハの水は、ただ打ち水のように広がるだけではない。

同時に地面を削り、深さ一メートル、幅五メートルの掘割となっている。


「よし!」


フェールは勇者隊に司令を出そうとするが、その言葉を飲み込んだ。


なんと二足走行のトカゲは、水面を走って、ミズハが捕まえようと伸ばす水の手を振り切り、奥の瓦礫に走ったのだ。


「勇者隊、風に変化!

トカゲに追いつき、空中に巻き上げろ!」


トカゲの走力は予想外だったが、片手に乗るほどの爬虫類だ。

空中ではなす術もあるまい。


即座に突風へと変化した少年勇者隊たちは、激走するトカゲに追い付き、トカゲを風で巻き上げた。


トカゲはジタバタと空中で手足と尾を振り回していたが…。


パンッ!


風船のように破裂した、かと思うと、赤黒い肉塊がヘビ花火のように増殖を始め、えっ?、とフェールが驚くうちに、数メートルの巨体を持つ、大トカゲに変貌を遂げた。


骨に皮膚の膜が広がる翼まで、大トカゲの背中に生えている。


「…これは、もはやドラゴンだな…」


呆れたようにフェールは呟いた。


ただし、ある程度の大きさがあった方が、フェールや勇者隊にとっては戦いやすい。


瓦礫に潜り込まれることもあるまい。


(火の化身となって、トカゲを焼き尽くせ!)


フェールは改めて指令を発した。


ほぼ同時に、ドラゴンを包んでいた風が紅蓮の炎となって、爬虫類を焼いた。


フェールはそうしながら、白衣の内側から箱を取り出していた。


戦闘用に開発した新しいピットだ。


敵の体内に入り込む、新型爆弾ピットだった。


体表面が硬そうな奴ほど効果がある武器だった。


フェールは無造作に箱の側面のボタンを、ポチリと押した。



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