迷宮の塔
「なんか息巻いてるけど、もう詰んでない?」
気だるげにユリイカが突っ込んだ。
「窮鼠猫を噛む、だよユリイカちゃん。
用心しなくちゃ」
ユースは慎重に身構えた。
ロボットたちは光線を打ち続けており、金属の塔は、赤く熱を持ち、確かにそう長く持ちそうには見えない。
「気にし過ぎると相手にチャンスを与える、って事もあるのよ。
ちゃっちゃとあんな塔、ぶち壊しなさい」
ユリイカは欠伸混じりに言った。
ユースは用心深くキーボードを叩いていたが。
ヘビたちが空中で絡み合っていく。
なんだ…?
と思う間に、それは巨人のような姿になり、やがてどこからか、ヘビの上に、外部装甲が自力飛行し、貼り付いてきた。
あっという間に、ヘビの塊は甲冑を身にまとった巨人となった。
最後に、巨人と同じ程の長さの槍が、スポリと手に握られ、ヘビの巨人はレーザー銃を撃つロボットたちを潰し始めた。
「ほーら見なさい。
厄介になっちゃったわよ!」
ユリイカは楽しげにマイディリンの上に寝転び、頬杖をついた。
「大丈夫さ…」
ユース君は、エアキーボードを止めると、ヒュウと巨人の前に出て、
「ユースクラッシュ!」
叫びながら、ポコン、と巨人を殴った。
巨人は、漫画のように空のかなたへ飛ばされていき、遠くで天井に当たって砕けた。
魔道士の塔は、直後にビームに耐えきれず、溶けて金属の塊に成り果てた。
「あんた、久々に動いたんじゃないの?」
からかうユリイカに、ユースは、
「スーツが動いただけさ。
このグラブの中にもボタンがあって、僕はそれを押しただけ」
スーツのバイザーを上げて、ユリイカに笑顔を見せたユースだが、
「あ、いけない。
素顔は秘密なんだった!」
と、慌ててバイザーを下ろした。
パピーとフンボルトの一団は、ソンビやピクシーがプログラム改変銃を撃ちまくったため、とんでもない大部隊となり、城壁沿いに進んでいた。
「ここは、ちょっと血が足りないな」
フンボルトは不満げに愚痴った。
「なんか生き物はいないのかい?」
パピーがロボットに聞くと、
「奥の塔にいる魔道士様は、人間ですよ」
とレンジ君型ロボットはアームを伸ばして銃を撃ちながら答えた。
「そうか!
では、私はちょっと、血の匂いを辿って来る!」
腹ペコらしかったフンボルトは、部隊を離れて飛んで行ってしまう。
「ありゃー、中には吸血鬼の苦手な敵もいるだろうに。
みんな、フンボルトさんを追いかけるよ!」
パピーは、ロボット、ピクシー、ゾンビの混成部隊を指揮してフンボルトを追いかけた。
奥の塔、は五分も歩かずに到着した。
石で組み上げた、かなりクラシカルな塔だ。
かなり上部にアーチ型の窓があり、ちょうどフンボルトが中に入っていく。
察するに鍵を開けるのに手間取ったようだ。
「お化けと違って吸血鬼は不便だねぇ。
壁抜けとかできないんだね…」
パピーは気の毒がってから、
「ピクシー、様子を見てきて」
キキィ! と妙に元気なピクシーが答えると、ピューと石壁を突き抜けて入っていった。
元気に塔に飛び込んだピクシーだが、すぐに飛び出してきて、
「キキッ!」
と切迫した報告をした。
「ふーん、中はかなり複雑な迷路なのかい…」
パピーは首を傾け、
「なら、ピクシー全員で捜索だよ。
あ、君は正面の扉の鍵を開けて」
元気のいいピクシーは、特命を受け、大喜びで扉を壁抜けして、中から鍵を開けた。
そこにゾンビがドカドカ入っていく。
戦闘力の低いロボットたちは、外で、集まってくるロボットを味方にする仕事を仰せつかった。
石造りの塔の内部は、ほぼ廊下で構成された作りだった。
曲りくねり、二股、T字路、十字路が入り組み、行き止まりも多い。
キキィ! キキィ! とピクシーたちがパピーに報告を上げ、パピーは地面にロー石で地図を書き込んでいく。
「ふーん、だんだん迷路が分かってきたよ」
キキィ!
ピクシーが慌てふためいてパピーに告げる。
「なに、回転する床!」
比較的ベタなトリック、とウラガスミなら思うだろうが、オバケには驚愕のトリックに思えた。
「待って。
ここに人員を集めて、解き明かすんだ!」
ロボットも混じって、マッピングは大騒ぎになっていく。
「いやいや、それだと矛盾するよ!
回転が必ずしも直角とは限らないんじゃないかな?」
パピーが唸る。
「ガウガウ」
ゾンビが、解体したところ歯車の構造に違いはなかった、と外見とは似つかない冴えた見解を述べた。
「うーん、仮にも魔道士を名乗る敵だからね。
ランダムに魔法が発動されるのかもしれないよ?」
「キキッ!」
新たな発見をピクシーがもたらした。
「えー!
落とし穴!
そんな悪辣な罠があったのか!」
ピクシーやパピー、フンボルトは飛べるのだが、ゾンビには危険な罠だ。
「みんな!
最優先で落とし穴を割り出すんだよ!」
さすがのパピーも慌てた。
「まーゾンビは死なないので、それほど慌てなくても良いのではないかな?」
誰かが口を挟むが、パピーは怒り心頭で。
「死ななければいい、ってもんじゃないよ!
やり口が悪い、って事さ!」
確かに回転床と合わせると、とても危険であるのに間違いはない。
「まあ、吾輩はそんなものには引っかからないがな」
へ? とパピーが振り向くと、老人の生首を持ったフンボルトが、不味そうに血を飲んでいた。
「ま、好みではないがビンテージではあったよ」




