六人の魔道士
「なるほどなるほど。
火炎は己を守る攻撃的バリアーであると共に、大元のエネルギーの受信機でもあったようだね!」
フェールたちが駆け寄ると、破壊された塔の中で、年老いた男がうずくまっていたが…。
不意に、見下ろしていたフェールとミズハを、老人は首をねじって見上げ、ニヘラと笑った。
「吾輩を見たね…」
「わが…は…い…?」
さっき、確かに俺、と自称していたはずだった。
フェールは嫌な違和感を感じるが、素早くミズハがフェールの前に出た。
「水の盾!」
ほぼ同時に、老人の火炎魔法がミズハの水の盾とぶつかる。
本来なら、初歩のマジックである水の盾で高位の火炎魔術を相殺するなど不可能なはずだったが、そこは神遺伝子を持つミズハのマジックだ。
あっさりと火炎を防いだ。
「我輩、ねぇ…?」
かばわれた事など毛にも感じずに、フェールは考え込んだ。
普通、己を自称する一人称、僕や俺、それがしなどが、急に変わることは、あまり無い。
無論、社会的に、普段は俺の人物が、
「私は◯◯で部長を勤める✕✕でございます」
など、いわゆる社会的に自称を変える場合はある。
子供でも、同級生には俺でも、親や先生には僕、と自称したり、人は案外、オートマティックに器用にいくつもの仮面を付け替えて生きるものだ。
こういうのを心理学用語でペルソナと言うのだが、しかし…。
同じ敵が、同じ相手に俺と我輩を使い分けるとしたら…?
単純に多重人格、と考えることもできるが、戦いの中でそーいったことが起こる場合、力の封印をしている、場合もある。
つまりはウラガスミの漫画やゲームにあるように、レベル千の力があっても、普段はあまり役に立たない。
街で普通に暮らすなら常人ならレベル十とか、ちょっと強い人ならレベル五十とかで充分なはずだ。
カゲユさんから無限の魔王パワーをもらっているのだから常に千でも困らないのだが、ついうっかりと蝋燭に火をつける程度の火が欲しいのに、レベル千では家屋ごと吹き飛ばしかねない。
普段は俺を自称し、本来の力は封印した方が、特に火炎魔術などの使い手ならば、生活はしやすくてもおかしくはない。
とはいえ、吾輩を自称した現在でも、ミズハの水の盾で火炎を封じられてしまったのだが…。
もうちょっと見ないと、なにも断定はできないかな。
とフェールは科学者の理性で考えた。
「そんな火ではウチらに傷もつけられんで!」
ミズハは挑発するように言うが、老人は。
「それはどうだろうな…」
ヒヒッといやらしく笑った。
と、フェールの背後にずらりと五人、似た感じの老人が、しかし素早く現れた。
あ、そっちの方か…。
とフェール。
科学者の特性として、特殊な方を先に考えてしまう。
どうやら、この炎の魔術師は六人の集合体であったようだ。
「フェール君、ちょっとヤバいで…」
ミズハが囁いた。
「え、何が?」
フェールは怪訝に問う。
この程度のザコが何人いようが、ミズハが苦戦するなどあり得ない。
「何や知らんけど、魔法が封じられてしもた…」
ん?
フェールは嫌な予感と共に、自分の魔法力を調べる。
マリンのお陰で、それらはデジタル化して即座に解るようになっている。
あの言葉…!
吾輩を見たね…。
その言葉が、一つの魔法を発動させたらしい…。
魔力封印、的な魔法、またはもっと呪いに近いものかも知れなかった。
身体能力は失われていないので、肉弾戦で勝つことは可能だが、それではフェールたちも無傷とはいかない。
「フェール博士!
どうしましたか!」
異変に気がついたタルカが声をかける。
「うむ。
どうやら魔法を封じられた。
君たちは僕が良いと言うまで、姿を隠してくれ」
塔の中の老人がフェールたちの力を封じたのだろうが、見た感じ、六人はクローンのようにそっくりだ。
もし、全ての老人が同じ能力を持っているのならば、少年勇者隊を失うわけにはいかなかった。
なんとか六人を一つの座標軸に集めて、少年勇者隊に遠隔攻撃をさせれば、おそらくは詰むはずだ。
問題は、どうフェールとミズハを取り囲んだ六人を、一つの場所に集めるか…、だが。
「フェール君、こうなったら闘うで!」
ミズハは、決して近接戦闘が苦手なわけではない。
より魔法が得意なだけであり、それはフェール君も同じだった。
「いいけど、相手は火炎使いだよ?」
接近までにフェールたちが攻撃を食らうことになる。
「あんた、なんかええ武器持ってないの?」
いくら天才とはいえ、急に言われても困るのだが…。
「うーん、急に言われても魔王の作ったスーパーノヴァぐらいしか出せないけど…」
「ええやん!
あれ、一撃でビルぐらい吹き飛ばせるやろ!」
ちょっと時間があれば、もっとパワーアップも可能なのだが、敵に取り囲まれている以上仕方なかった。
「ルルイラ、僕とお姉ちゃんにスーパーノヴァを装着」
本来はロボット形態で扱う兵器だが、ミズハとフェールなら直接肩に乗せても問題はない。
「よぅーし、行くで、フェール!」
ずっとお子様の世話係ばかりだったミズハは、ノリノリに叫んだ。




