転倒
広いロビーは、21世紀日本のイメージで言うと、二階吹き抜けぐらいの高い天井のホールで、その天井からシャンデリアのように小さな白い光が集まった物が、幾つも吊ってあって非常に明るい。
床は、よく磨かれた石で、鏡のように周りを映していた。
アシムは、イライラとデバイスに向かって吠えている。
あー、そうか…。
デバイスって、通話もできるのかぁ…。
誰とも話したこと無いから知らなかった…。
僕は、ちょっと羨ましくアシムを見て、そして重大な事実に気がついた。
僕は、あれを見ても、何も思い出さない!
愕然とする事実に、僕は思わず立ち止まった。
懐かしいイフの町で、本当に仲良しだったパントンとクローラー。
でも僕は、デバイスで通話した記憶はよみがえらなかったのだ。
つまり…。
僕は本当に、デバイスで通話したことがない…。
と、いうことは、イフの町はifの町で、…あの二人は…。
僕は、本当に、泣きそうだった。
が。
目の前にはアシムがいて、僕は素手同然でロビーに立っている。
今、この場で、号泣…、と、いう訳にはいかなかった。
とにかく…。
とにかく、この状況を、どうにか切り抜けて、泣くのは、それからだ!
僕は決意し、足を踏み出した。
が…。
このピカピカのロビーに、全く気がつかないほどの、一滴の水が零れていたことに、僕は気がつかなかった。
あ、
と思った時。
僕は、盛大に転んでいた。




