そこに腐ったアレが…
しばらく歩くと、遠くに河が見えてきた。
デバイスの地図を見ると、トゥーム河だそうだ。
そうそう。
僕はトゥーム河にある橋を渡った先にあるダンジョン、イザベラの廃墟、に行くのが目的だった!
けど、レベル20ぐらい無いと、たどり着くのも難しいとデバイス検索の結果判ったので、河の手前でレベル上げをしているんだった。
レベル16ぐらいで喜んではいられない。
あ、そうだ。
学生服を着ているのも、イザベラの廃墟で使いたい装備を買うため、今はあえて節約しているんだった。
今、デバイスには429,000円貯まっていたが、高機能バトルスーツは50万するし、欲しいレイガンも40万する。
レイガンは裸で持つ、と言う訳にはいかないのでガンホルスターも必要だし、予備バッテリーだって必要だから、全部合わせると200万ぐらいはかかってしまう。
リアルは何につけ、お金がかかってしまうのだ…。
これが21世紀のゲームだったら、ダンジョンに入るためだけに荒野でレベル上げ、とか、色々批判を浴びそうだけど、これもリアルだから仕方がない。
そうそう都合よく初心者向けのダンジョンが手近に転がっている訳もないのだ。
ん…。
そいつの事は、ちょっと前から判っていた。
白いバトルスーツの男が、近づいて来ていた。
デバイスが点滅していた。
「えっ、点滅!」
普通、他の冒険者に会った場合、デバイスはグリーンに光るはずなのに、今は赤く点滅している…。
まさか…、カンセンシャ!
カンセンシャ、とは、要するに、世に言うゾンビの事だ。
ノラを含め、カンセンシャに噛まれると、ウィルス感染してしまうのだが、しかし高機能バトルスーツにソフトヘルメットまで装備していて、感染などするものだろうか?
デバイスに気がついてよかった。
なまじ敵認識のジョブがあるため、僕は通常、あまりデバイスには頼らない。
今は偶然、デバイスを見たので敵と気づけたのだ。
カンセンシャは、実のところ、そう多くはない。
なぜならリアル空間では、ゾンビはすぐに腐敗し、動けなくなってしまうから。
ゾンビ最大の敵は、実は細菌と昆虫、小動物なのだ。
彼らに襲われた哀れなゾンビさんたちは、3日と待たずにボロ雑巾のようになってしまうのだった。
しかし…。
僕が、まさしく欲しいようなバトルスーツを着ている以上、敵は僕よりハイレベルと思わなければならないだろう。
うーん。
スリングショット、良い武器なんだけど高機能バトルスーツを着ている人間は想定していないんだよなぁ…。
ナイフも刺さらないだろうし…。
と、なると、僕の勝ち筋はマジックかスキル、と、いうことになる。
さて、僕のマジックポイントは888だ。
普通、ゲームでゾロ目になるのは最大値999の場合のみ、と、言ってよいのではないだろうか。
実は、888のゾロ目とは、僕の特殊能力、第2弾なのだ。
999はMAXなので、もちろん強いが、これはただの最大値だ。
では、888のゾロ目とは…。
全てのマジックを、最初から全部覚えている、という事だ。
マジックの中には、買わないといけなかったり、特定のダンジョンの中にしかないものもあるが、それまで含め全てを僕は覚えている。
ただし悪い事もあって、普通MAX999であるはずのマジックポイントがMAX 888で頭打ちになってしまうのだ。
そして最高位マジックには999ポイントで発動するものもある。
なんじゃ、そりゃ、なのだ…。
まあ、レベル15で888もマジックが使えるのだから、十分便利なんだけどね。
高機能バトルスーツを破壊するマジックは幾つもあるが、しかし、である。
壊してしまえば、高機能バトルスーツも学生服も変わらない。
だが、そのまま手に入れたら50万。
中古でも、おそらく40万は下らないと思う。
もったいない…。
なんとかバトルスーツも無傷で手に入れたいものである。
と、なると頼みの綱はスキル、ということになる。
僕はMAXのスキルポイントを持っているので、自分で身に付けているスキルであれば、何でも自由自在に使いこなせる。
ただ、残念なのはレベルが15なので、この前、やっと柔道スキルを町で購入したばかり、という点だ。
柔道って、殴り合うとか無い分、痛くなさそうだから選んだんだけど、敵が殴ってきた場合、どうなのだろう…?
僕は敵と距離があるうちに、マジック、パラメータ確認で相手の力を見てみることにした。
名 はしP
性別 男
レベル 25
パワー 721
タフネス 787
マジック 210
スキル 420
敏捷 521
精密 610
ルックス 621
身長 172
体重 72
む。
むむっ…。
パワーが721もあって、しかもタフネスが787もあるだと!
柔道スキルで、この差を埋めることは出来るのだろうか?
だが、考えている内に、カンセンシャ、はしPは、スリングショットの射程に入って来ていた!