連中の目的は…
「えっ、と…。
僕には、その、500キロ離れたイフの町に友達もいるし、レベル1の頃から、んー、何ヵ月も一緒に戦っていたんですけど…」
僕は反論した。
あの日々が、嘘であるハズがない。
「その子たちの本名を知ってる?」
コフィが聞いた。
「えー、
でも、デバイスでは本名なんて…」
「それだけ親しかったら、デバイス名だけでなく、本名ぐらい知ってても、おかしくはないでしょう」
あれ…、そうだな…。
「そ…れは、たまたまだよ。
それに忘れてるだけかもしれないし」
コフィは、ため息をついた。
「あなたの友達というのはパントンとクローラーという名前じゃない?」
僕は飛び上がって、椅子から落ちそうになった。
「二人を知っているの?」
コフィは肩をすくめる。
「君には、こう書いた方が判りやすいだろうね」
トムトムは言い、紙に文字を書いた。
if
え…。
「イフの町って…」
「そう。
if の町。
それは架空の町なんだよ。
この町から500キロ先なんて、海か荒野か砂漠しかないんだ」
「連中が魔法で植え付ける記憶にはパターンがあるの。
頼もしいパントンと可愛いクローラーというのは男の子にインストールする記憶の典型例なのよ」
僕は、何も考えられなくなって、体が震えた。
「じゃ…、じゃあ、僕はいったい、どうして…。
どうして21世紀の日本から、こんな所に?」
「連中は、丈夫な冒険者を、いつでも欲しがっているのよ。
何しろ。
あなたも町に来て判ったんじゃない?
ここには、大人の冒険者なんて、ほとんどいないって」
あっ…、と、僕は叫んだ。
確かに。
皆、僕と同じくらいの年齢の子たちばかりだった!
「凄い勢いで、皆、死んでいくのよ。
それなら、それで人口が増えればいいのだけれど、デバイスは、そうそう増産出来ないのよ。
ならば、1人、優秀な人材をスカウトした方がいいでしょう。
それがあなたなの」
「え…。
僕って、記憶はないけど、そんなに優秀、って訳じゃないような気がするけど…」
コフィとトムトムは視線を交わした。
「君たちの世界には魔法の概念が無いだろ?
君のマジックポイントは?」
あ…、と、僕は呟いた。
「888…」
コフィが叫んだ。
「888!
本当なの?
あなた、スーパーマンじゃないの!
そりゃ、生き残るハズよ!」
トムトムも頷いた。
「それが理由だ。
君は、この世界では魔法の天才なんだ。
彼らは小躍りして喜んでいるだろう」
僕は真っ青になった。
「えと…。
何か、強い敵がいるとか?」
「敵だらけなのよ。
目の前の、シャーレの森は、年々範囲を広げ続けている。
町は、今までイザベラの廃墟で発掘した資源で潤っていたけど、それも段々目減りしている。
トムトムも言ったように、周りは荒野か砂漠か海。
それに、かつて無い程の勢いでノラが増えているわ」
「あ、それ。
気になってたんだけど、ノラの人は、どうして町に入れないの?」
コフィとトムトムは、顔を見合せた。
「先天的に、魔法要素を彼らは持ち合わせていないの。
デバイスが使えないからノラなのよ」
「え、子供もいたけど、あの子たちも確かめているの?」
コフィは首を傾げた。
「さぁ、専門家じゃあ無いから判らないけど…」
トムトムが言う。
「どの道、彼らを町には入れられないよ。
どんな理由にせよノラを町に入れたりすれば、他のノラが騒ぎだす。
彼らは、ここに入りたくって仕方がないんだからね。
町が一番恐れているのが、ノラの暴動なんだ」
「だって、21世紀から僕を強引に連れて来るなんて酷いじゃないか!
ここのノラの子で済むなら、そうしてよ!」
「済まないのよ。
判るでしょ。
あなたまでいかなくとも、凄い天才が魔法で手に入るんだから、町の崩壊の危険があるノラより、ずっといいでしょ、連中にとっては」
僕は言葉を失った。
しばらく考えて、
「えと…、連中は、ってことは、コフィとトムトムは立場が違う、ってこと?」
二人は頷いた。
「あたしたちは、実は、あなたのような異空間人の思想に賛同しているの。
冒険者として、あなたのような人たちと身近に接して、ここでだって、あなたたちの言う民主的な社会が出来るんじゃないか、って考えているのよ。
それで、あなたを仲間に選びたい訳。
理解してくれる?」