そして路地へ入る
僕は驚いて、離れて座っていた少女を見た。
少女は僕を見て、ニッ、と笑った。
多分僕の顔に、相当、人懐っこそうな表情が出ていたんだろう。
少女は、キッ、として、黙って食事をしろ、というゼスチャーをした。
そんなこと言われても…。
お前は騙されている、なんて言われたら気になるに決まっている。
とはいえ、今、彼女は、キャンパさん以外では唯一の、僕を知っている人、だ。
何しろ僕自身が僕を知らない、という状況なのだから、彼女のいう通りにするしかない。
僕は、気もそぞろにトマトと豆の煮物を食べ、イコペッティのフライをかじった。
食事が終わっても、僕は彼女の様子を伺い続けた。
彼女、グリーンの髪の、少し緑がかった皮膚(この辺では、そういう人が多い。多分、地元の人だ)の、少し耳の尖った小柄な美少女だった。
この世界では、例外もあるのだが、キャンパさんのように大柄か、そうでなければ彼女のように150無い感じの人が多い。
男でも、だいたい僕ぐらいか、あるいは190に近いような人だ。
彼女は、ご飯を食べ終わった僕を尻目に、物凄く美味しそうにデザートらしいドーナツ(見た目も、味もドーナツで、呼び名は少しなまっているが、やっぱりドーナツだ)を食べていたが、半分ぐらい食べたところで僕に気がつき、やや焦ったのか、残り半分のドーナツを丸飲みにした。
すまして、手の砂糖をパラパラと払って、席を立つ。
僕も後から付いていった。
食堂を出ると、彼女はギルドの建物の裏手、下宿屋の建ち並んでいる路地に入っていく。
路地は曲がりくねって無数の枝道に分かれ、しかも、どの道も車も入れないほど狭い。
ただ、とても活気があり、皆、元気だ。
そんな路地の奥に、看板も出ていない、小さなバーがあった。
彼女は躊躇なく、その店に入っていった。